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連載小説【走れエロス】6/8
門の前に立ち、インターホンのボタンを押す。斜め上に、監視カメラのレンズが怪しく光っていた。
《誰や》
「ひかるです。扉を開けてください」
《・・・ちょっと待っとれ》
腕時計を見ると、ちょうど午前0時だった。

正門の横に小さな通用門があって、そこから甚平を着た男が顔を出してきて、あごをしゃくって入れと命じた。背をかがめて通用門をくぐる。
はやる気持ちを抑え、土蔵に向かって歩き出すと、甚平が「そっちやない」
「え?」
プレハブ小屋を指差し、じゃあなと言って母屋のほうへ去っていった。

ドアを開くと、天井にタバコの煙が立ち込めていて、中でヤスさんたちが全自動麻雀卓を囲んでいた。
「な・・・何よこれ」
「おう、帰ってきたか」といって、長田さんが屈託のない笑顔を向けてくる。
その横で、ヤスさんが気難しそうな顔で手にした牌を眺めていた。隣で根本さんが「ヤス、早よせえや」と急かす。もうひとりは私の知らない顔だ。
いずれにせよ、人命がどうこうという雰囲気じゃない。

「ほう、ちょうど12時やないか」と、長田さん。
本当は3分ほど超過していたのだけど、あえて言わずにおいた。
「・・・何やってんスか」
「見てわからんか? 麻雀に決まってるやろ」
「そうやなくって」
「ところで、ブツはちゃんと持ってきたんやろうな」
「・・・ここにあります」といって、ハンドバッグの中からビニール袋を取り出し、長田さんに手渡した。
「ご苦労やったの。冷蔵庫にビールが入ってるから、勝手にやってくれ」
な・・・なんなの、この緊張感のなさ!

ヤスさんの前に立ち、銜えていたタバコをもぎ取った。
「おいおい、何すんねん」
「人が苦労して袋を取り戻してきたってのに、これはいったいどういうこと?」
「ああ、それな。根本、説明してやってくれや」
ごくりとビールを飲み、根本さんが麻雀牌を睨んだまま話し始めた。
「おまえ、新地のJUNに行ったやろ。あそこはな、うちの組の直轄なんや」
「・・・・・」
「山本のことも聞いた。あいつはうちの元組員でな、何をやらせてもダメなやつで、ええ歳こいてパシリさえ満足にできん。それで風俗の店長やらせたんやけど、これまたぜんぜんダメ、店の女に手ェ出すわ、売り上げをチョロまかすわ、幹部連中もホトホト愛想尽かしてな。そんなとき、うちの若いもんがヘタ打ちよった。そいつが有望なやつで、なんとかムショに行かさんようにとポリの署長にかけあったら、代わりに何か手柄立てさせろって言うてきよって、じゃあ風俗店をどうぞってことになった。まあ、ようするにその程度の使い道しかあらへん男っちゅうわけや」
「・・・ってことはつまり、ヤマさんは、盗んだ麻薬をわざわざ盗まれた相手のところに売りに行ったってわけ?」
「ま、そういうことやな。相変わらずアホなやっちゃで」
「じゃあ、私の今までの苦労は、いったい何やったんですか」
「JUNのオーナーはうちの幹部や。あいつ、えらい感心しとったで。あのオカマちゃんはなかなか見所があるとか言うて、ベタ褒めしとった」
「だからって、こんなトコでのんびり麻雀してるなんて、あんまりです」
「山本がブツを持ち込んできた時点で、この件は解決してた。けど、それを伝えるすべがない。おまえのケータイはここにあるからの」
「・・・JUNのオーナーがここの幹部なら、私がJUNに行ったとき言うてくれればよかったんとちゃいますか」
「それはできん。山本がブツを持ってくるまで、あいつを信用させとかなあかんかったからな。でないと、そのままトンヅラされてしまうかもしれん」
「けど私、あそこのタコボウズに殴られたんですよ」
「敵をあざむくにはまず味方から・・・まあ、カンニンしたってくれや」
なんか、無性に腹が立ってきた。

麻雀牌をなぎ倒し、みんなを睨みつける。
「こんなに苦労して戻ってきたのに・・・ヤスさんを死なせてなるかと思って、さんざんな目にも遭ってきたのに、あまりにひどすぎるやないですか!」
「・・・ひかる、すまんかった」と、ヤスさんが神妙な顔で謝る。
「私は・・・ヤスさんのことが心配で、それで」
涙がぼろぼろ溢れ出てきた。

「ひかる、聞いてくれ。俺がバクチで儲けた金を全部渡すことで、この連中と和解した。それもこれも、みんなひかるのおかげや。きのう、おまえがああ言ってくれんかったら、俺はホンマに殺されていたかもしれん。ブツを取り戻すために奔走してくれたことも、俺は心の底から感謝してる」
「口では何とでも言えるよね。何が感謝よ。こんなところでのんびり麻雀なんかして、ちっとも説得力ないわ」
「他にすることがなかったんや。それとも、俺がギロチン台に縛りつけられてたほうがよかったか?」
「・・・・・」
「でもまあ、たしかにこれはマズかった。謝る。すまん」

ぽんと、根本さんが肩に手を載せてきた。
「俺も謝る。今までひどいことばかりして本当に悪かった。大量のブツをパクられて、頭がカッカしとったんや。まあこれは言い訳にしかならんが」
「俺も謝らせてくれ」と、長田さん。
「正直言うて、俺はおまえのことが好きやった。あ、ヘンな意味とちゃうで。なんちゅうか、裏街道を歩く者特有の親近感というか、世間から後ろ指をさされる者にしかわからん痛みっていうか、そんなものを感じたんや。もちろん俺らはヤクザやから、後ろ指さされて当然や。けど、おまえは違う。何も悪いことしてへんのに、ただ女のかっこうをしてるだけやのに、世間から蔑まれてる。そんなところにも好感を持ったんや。ひかるにすれば迷惑な話かもしれんけどな」

根本さんが立ちあがり、事務机の引き出しから私のケータイを取り出した。
「これは返す。約束やからな。それから、これは少ないかもしれんが、俺からの感謝の気持ちや。受け取ってくれ」
封筒に入れられた札束・・・いくら入ってるか想像もつかない。
「こんなもん、受け取れません」
「汚い金やと思ってんのか? まあそれは否定せんけど、どうしても受け取るのがイヤなら、どっかの慈善団体にでも寄付すればええ。とにかく、この金はおまえの自由にしろ。汚い金も、使いようによってはきれいな金になる。おまえなら、そうしてくれると信じてる」
「・・・わかりました。じゃあ、ありがたく頂戴します」
「あ、それから、これも」といって、大きな紙袋を手渡された。
「何ですか?」
「俺の女にたのんで、買ってきてもらったんや。おまえに気に入ってもらえるかどうかわからんけどな」
開けてみると、可愛いドレスとパンプスが入っていた。
「・・・ありがとう」

長田さんも、はにかみながらプレゼント箱を差し出してきた。
「俺はちゃんと自分で買うてきたぞ。ちょっと恥ずかしかったけどな、はは」
包装を解くと、シャネルの香水とネックレスが入っていた。
「こんなにしてもらって、私、何て言えばいいのか」
「ヤスにいろいろ聞いた。おまえは自分の危険を顧みず、ヤスを守ろうとしたんやってな。こんな極道モンでも、少しは人間としての心を持ってるつもりや。そんなおまえに、俺らはひどいことをした。これくらいして当然や」
「・・・・・」
「JUNのオーナーがおまえを待ってる。もしよかったら、行ったってくれ」
「なんで私を?」
「それは、本人に聞け」

ヤスさんが気まずそうにやってきて、頭をぼりぼり掻いた。
「俺は文無しになってもうたから、ひかるに何もしてやれん。すまん」
「いいですよ、そんなの」
「せめてものお詫びや。おまえにだけはホンマのことを言う」
「ホンマのことって?」
「長田、根本、シンジ、すまんがひかるとふたりだけにしてくれんか」

3人が出ていき、私とヤスさんだけが残った。
「俺が組のブツをちょろまかして横流ししてたのは、東京にいる弟のためや」
「・・・弟さんがいてらしたんですか」
「ああ。新宿のショーパブでニューハーフしとる」
「え!」
「弟といっても、血の繋がってない兄弟で、俺とは8つ違いや。俺が極道の世界に入ったとき、あいつはまだチュー坊で、女みたいにナヨナヨしとったからみんなにいじめられて、ある日自殺未遂を起こしよった。上級生の不良グループにマワされたんや。頭にきて、そいつら全員ブッ殺そうと思って家を出ようとしたら、あいつのかあちゃんが、俺にとっては義理の母親なんやけど、その人がこう言うたんや。あんたみたいな極道な兄がいてるからコウイチがこんな目に遭ったんやって。ショックやったよ。マジでな。そやから俺は、弟がいることを誰にも言わんことにした」
「・・・・・」
「で、弟は東京に引っ越した。あいつのかあちゃんが、俺と引き離したかったんやろな。けど、コウイチは俺のことを好いてくれてた。ときどき、俺に会うためにこっそり大阪に来てくれてたんや。嬉しかったけど、不安でもあった。弟と会ってるところを誰かに見られるかもしれんからな。だから、俺のほうから会いに行くことにした。去年の春からや。そのとき告白された。女になりたいってな。ニューハーフになりたくて、ショーパブでバイトしてるって言うんや。けど、金がないからオペができん。それに、女っぽくはあったけど、けっして美人やなかった。なんせ俺の弟やからな。それで、なんとかしてやろうと思った。タイで性転換させ、韓国で美容整形を受けさせた」

これには本当にびっくりした。そんな事情があったとは・・・
「でもヤマさん、いくら弟さんのためとはいえ、組のものを横流しなんてしなくても、手術代くらい出せたんじゃないの? バクチで大儲けしてたんでしょ?」
「あれはうそ。そうでも言わんと、あいつらを納得させることはできん」
「ってことは、通帳に入ってた1千万ってのは」
「横流しで儲けた金」
「ひっどーい」
「そう言うなや。とにかく、これで弟は絶世の美女になれた。もうこれで、誰もあいつをバカにしたりせんやろう」
「それで、本当に弟さんはしあわせなんやろか」
「・・・どういう意味や」
「綺麗事かもしらんけど、麻薬を横流ししたお金で整形したわけでしょ?」
「・・・・・」
「額に汗して働いて手術したほうが、ありがたみが違うと思う」
「俺は、こんなことしかしてやれん」
「弟さんは、それがどんなお金か知ってるの?」
「いや。弟には、組が経営するクラブのオーナーをしてると言うてある」
「もし、私があの袋を取り戻せてなかったら、ヤマさんが別のルートで売りさばいていたら、弟さんの大好きなおにいちゃんは殺されてたんですよ」
「・・・・・」
「言っちゃ悪いけど、義理のお母さんの気持ちがよくわかる。ヤスさん、あなたはカッとなったら前後の見境がなくなって暴走しちゃうんよ。それを、義理のお母さんは見抜いてたんやと思う」
「そう・・・かもな」
「弟さん、手術してから変わったりせんかった?」
「ああ。衣装代にどうしても50万いるから工面してほしいってなことを、たびたび言うようになった。昔はそんなこと絶対言わんかったのに」
「外見はきれいになったけど、心はすさんでしまった。ヤスさんのせいでね」
「・・・・・」
「愛情って、そんなもんやないと思うよ」

長田さんたちからもらったプレゼントを袋から取り出し、その場で着替えた。
「どう? 似合ってる?」
「すごくきれいや」
「このプレゼントには心がこもってる。だから、きれいに見えるんよ」
「・・・・・」
「私、もう行くね」
「行くって、どこに?」
「JUNのオーナーが、私を待ってるらしいから」
「そうやったな」
「ヤクザさんのことはよくわからんけど、その世界にはその世界のルールってもんがあると思うの。長田さんたちが和解に応じてくれたんなら、その恩義に報うべきやと私は思うな」
「・・・・・」
「ヤスさんのやさしさ、私はちゃんとわかってるつもり。でなきゃ、麻薬を取り返すために大阪中駆けずり回ったりしてへんよ」
「ひかる、また会ってくれるか」
「それは、やめといたほうがいいかも」
「・・・そうか」
ぎゅっと抱きしめられ、キスされた。

プレハブ小屋を出ると、長田さんと根本さんが庭石に腰掛け、タバコをプカプカくゆらせていた。
「遅かったやないか。まさか、中でチチクリおうてたんとちゃうやろな」
「あはは、まさか~」
「それにしても、ドレスよう似合ってるやんけ。見違えたで」
「ありがとう。大切にします」
「また来いよ、と言いたいトコやけど、こんなトコもう二度と来るんやないぞ」
「ふふ、誰がこんなトコ来たるかい」
「けっ、相変わらずやの。まあ、おかげで楽しかったわ」
「私も♪」
p0141.jpg
通用門を出て、高塀沿いに歩く。スカートがヒラヒラして気持ちいい。
ふと見ると、街灯の下に金髪の男が立っていた。
「ホンマに待ってたん?」
「当たり前や。ここで待ってるって、ちゃんと約束したやろが」
「物好きやねえ」
「そんなことより、どうしたんやその服」
「ヤーサンにもらってん」
「おまえ、やっぱりすごいわ!」
こんな気持ちになったのは、高校のときクラス一のカワイ子ちゃんから特大のバレンタインチョコを教室の中でもらって以来だ。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

【2009/08/28 22:37】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0)
連載小説【走れエロス】5/8
ドアを開けると、予想どおりウエイターが立ち塞がり、私の行く手を遮った。
構わず、勝手に入り込む。
「お客さん、困ります!」
中はけっこう広く、奥のステージにグランドピアノが置かれていた。ざっと見渡したところ、お客さんは20人ほど。団体もいればひとりきりの客もいる。カウンター席もあったが、そこに客はいなかった。珍客がやってきたとでも思っているのか、みんな好奇心たっぷりの目で私をジロジロ眺めていた。

うしろから肩をつかまれ、振り向くと、坊主頭の大男が立っていた。
「ここはおまえみたいな人間の来るトコちゃうで」
肩をつかむ手に、力が込められる。
「痛いなあ、離せよ」
タコボウズのスネを、思いきり蹴っ飛ばした。
「あいてっ! このガキ、下手に出てりゃ調子コキやがって!」
グローブみたいな手が飛んできて、私の頬を直撃した。耳の奥がキーンと鳴ってバランスを失い、ぶざまなかっこうで絨毯の上に倒れ込んだ。ミニスカートがめくれ、白いショーツがあらわになる。
「な・・・なんやねんちくしょう! 私はここに盗られたものを取り返しに来ただけやぞ。そやのに、なんでこんな目に遭わなアカンねん」
ボックス席のほうから、バカにしたような笑い声が聞こえてきた。

「他のお客さまに迷惑や。つまみ出せ」と、タコボウズ。
ウエイターが2人、両側から私の腕をつかみ、よっこらしょと抱え上げて店の外に連れ出そうとする。その手にガブリと噛みついてやった。
「痛てっ! こいつ、イヌみたいなやっちゃな」
もうひとりの男の手を振りほどき、大股でボックス席のほうに歩いていく。
「ヤマさんはどこ? ここにいるんでしょ!」
ウエイターにうしろから抱きつかれ、みぞおちに肘鉄をくらわす。
ブランド物のスーツを着た男性客が、薄笑いを浮かべながら私のほうを見ていた。その横で、ウェイトレスが蔑んだような目を向けてくる。
・・・どいつもこいつも、ムカつく!

いちばん奥のボックス席に、さっきの女とヤマさんが並んで座っていた。その向かい側にラウンド髭の太った男。ソファにふんぞり返り、咥えタバコのまま私を睨みつけていた。シルクハットをかぶったら、ナニゲに似合いそうだ。
「おまえか、これを持ってたというオカマは」といって、髭男爵があのビニール袋を持ち上げてニヤリと笑った。
「それを返せ! あっ・・・」
うしろから髪をつかまれ、グイグイ引っ張られる。さっきのタコボウズだ。
「このオカマ野郎、さんざん手こずらせやがって」
「くそ、放せ!」
肘鉄をくらわそうとすると、あっさり交わされた。その腕をつかみ、思いきりうしろ側にねじられる。「んぎゃ! お、折れる・・・」
「オーナー、こいつどうします? ちょっとヤキ入れときましょか」
「放してやれ」
「・・・え?」
「こいつの目ェ見てみい。こんなキラキラ輝く目ェ見たんは、ひさしぶりや」
「はあ・・・」
「それに比べて、山本、おまえの目は腐り切っとるのお」
ヤマさんが、信じられないという顔で髭男爵をマジマジ見つめていた。

髭男爵の隣に座らされ、ヤマさんとにらめっこする。
隣で、リサちゃんが敵意むき出しの視線を向けていた。
ちらっと時計を見ると、午後11時37分・・・あと23分しかない。

「こんなもの、どこで手に入れたんや」と、髭男爵。
「どこでもいいでしょ。とにかく時間がないんです。早く返してください!」
「これがおまえのもんっちゅう証拠はあるのか」
「ないよ! けど、それを12時までに持っていかんと、私の友だちが殺されてしまうんです。お願いです、あとでどんな仕打ちでも受けますから、今すぐそれを返してください!」
髭男爵が、ダイヤが百個くらいついたロレックスをチラッと眺めた。
「あと、22分しかない」
「だから急いでるんですってば。もう、こんなことしてる場合やないのに・・・」
「どこまで持っていくんや」
「言えません。でも、ここからタクシーで10分くらいのところです」
「ふーん、走れメロスか」
ここにもひとり、太宰治の読者がいた。

「わかった。これは返す。その代わり、あとで必ずここに戻ってこい」
「え? ホンマに?」
「ち・・・ちょっと金村はん、そりゃないわ。話が違うやないか」と、ヤマさん。
髭男爵が、ギロリとヤマさんを睨みつける。
「おまえごときがこんなもん手に入れられるわけないと思とったら、なるほどそういうことか。相変わらず下司なやっちゃのお、山本」
リサちゃんが、意外な展開に目を白黒させてた。

「おまえ、名前は?」
「本名は言えません。女装の世界では、ひかると呼ばれてます」
「そうか。ひかるちゃん、男と男の・・・いや、男とオカマの約束や。あとで必ず戻ってこい。わかったな」
「はい、ありがとうございます!」
「金村はん、そりゃ殺生やわ。ほんならヤクの代金はどうなりまんねん」
「どのみち、おまえに金なんか払うつもりはなかった。飛んで火にいるナントヤラ、ヤクさえ受け取ったら、ここからつまみ出すつもりやったんや」
「そ・・・そんな」
リサちゃんの目が、みるみる怒りの炎に包まれていく。
「ちょっとヤマさん、話が違うやんか。一緒にハワイ行く話はうそやったん? 向こうのコンドミニアムでのんびり暮らす話はどうなったんよ!」
「あ・・・そ、それは」
「ヤマさんの言うこと信じて、私キャバクラやめたんやで。その責任どう取ってくれるのよ。何とか言いなさいよ、ねえってば!」

髭男爵が苦笑しながらウインクを送ってきた。
「さ、時間がないんやろ。早よこれ持って、友だちんトコ行ってこい」
ぽん、と投げ渡された。
「うん、そうする。ありがとうね、髭男爵さん」
「ひげ・・・男爵?」
「ふふ、ルネッサ~ンス♪」
p0065.jpg
大急ぎで店を飛び出し、タクシーを拾うため大通りに出た。北新地周辺はタクシーの通行が制限されている。
ずらりと並ぶタクシーの中から、いちばん安いタクシーを選んだ。
「すいません、○○町まで」
「○○町でしたら、A交差点を通っていかはります?」
「それでいいです。急いでるんで、なるべく早くお願いします」
時計を見る。午後11時48分。あと12分しかない。

A交差点に入ったそのときだった。いまどき珍しい暴走族がけたたましい騒音を撒き散らしながらやってきて、あろうことか私の乗ってるタクシーの前で蛇行運転を始めた。
「こいつら、暖かくなってきたら出てきよりますんや。今日は金曜やさかい、えらいぎょうさんいてますわ」
「急いでるんです。なんとか追い抜くことできませんか」
「そんなことしたら何されるかわかりません。ここはおとなしゅう回り道したほうがよろしいで」
「そんな時間・・・ないんです!」
「そう言われましてもねえ」

矢も盾もたまらず、窓を開けて大声で叫んだ。
「うらぁ! おまえら邪魔なんじゃ! さっさと道あけんかい!」
「お・・・お客さん、なんちゅうことを」
「運転手さん、このまま突っ切ってください」
「ひぃ~、冗談やないで。なんでボクがこんな目に・・・」

数台のバイクが近づいてきて、タクシーの周りをグルグル回りながら恫喝してきた。「今叫んだんはおまえか。ぶっ殺すぞコラ!」
「人の命がかかってるんです。たのむから邪魔せんとってください」
「なんやこのオカマ、ワケわからんこと言うとったらボコるぞ」
「だから、人の命がかかってるって言うてるやろ!」
「じゃかぁしい!」
バイクのうしろに乗っていた男が、金属パットでタクシーのフロントガラスをたたき割った。続いてサイドミラーをたたき落とす。
「うわっ!」
たまらずタクシーが停車した。バイクが取り囲み、ガラスを片っ端からたたき割っていく。
「もう、ムチャクチャや~!」
運転手さんがドアを開けて逃げていった。私も逃げようとしたけど、ドアが開かない。ドアロック部分にプラスティックカバーがかけられていたので、それを取り去り、あわててドアロックを解除する。がしゃーんという音がして、窓ガラスの破片が飛んできた。

「おらぁ! 逃げるなコラ!」
もし時間に遅れてヤスさんが死んだら、こいつらのせいだ。
「どけ。邪魔するな」
「なんやとこのオカマが。このまま無事に済むと思っとんのか、あ!」
もう、完全にキレた。

いちばん近くにいたヤツの鼻っ柱に頭突きして、次の男を睨みつける。
「な・・・なんやこいつ、やる気か。おもろいやないけ」
グイッとビニール袋を突きつける。
「これが何か、わかるか」
「・・・・・」
「覚せい剤・・・と思う。これだけで5千万くらいするそうや」
「そ、それがどうしたっちゅうねん」
「12時までに、これを持っていかんかったら、私の友だちが殺される」
「そんなもん、俺らに関係・・・」
「関係ないわな。そんなことわかってるわい。とにかく私は、これを届けなあかん。そのあとでいくらでも相手したるから、邪魔せんとってくれ」
「・・・それ、ホンマに覚せい剤なんか」
「うそついてどうなる。私の友だちが殺されたら、おまえらのせいやぞ!」
「わかった。なんやようわからんけど、俺のうしろに乗れや」
「え?」
「ダチが殺されるんやろが。早よ乗れ!」

すべての信号を無視して、夜の街を暴走バイクが疾走する。
「どこに行けばええんや?」
「○○町の交差点ってわかる?」
「ああ、知ってる」
大声で話さなければ聞こえない。すごい爆音で、耳がおかしくなりそうだ。

「おまえ、名前は?」
「ひかる」
「俺はシンヤ。こう見えても族のアタマ張ってるんやで」
「あ、そ」
「ちぇっ、ガッカリさせてくれるリアクションするなあ」
「だって私、そんなんぜんぜん興味あらへんし」
「そりゃまあ、そうか」
「あと何分くらいで着く?」
「そうやな、5分もあったら着くやろ」
「それじゃ間に合わん。もっと飛ばして」
「おいおい、無理言うなよ」
「こうなったのも、あんたらのせいなんやで。もっと責任感じてほしいわ」
「わかった。ほんなら思いっきり飛ばすから、しっかりつかまってろ」

交差点を曲がり、住宅街を突っ切ると、やっとあの高塀が見えてきた。
「あそこの角で降ろして」
「おまえ・・・なんかすごいな」
「何が?」
「ここ、ヤーサンの本拠地なんやろ?」
「うん」
「・・・ここで待ってる」
「いいよ、別に」
「おまえに何かあったら大変やないか」
「何もないない」
「やっぱり、おまえすごいわ」

バイクを降り、すぐさま時計を見た。午後11時58分。ぎりぎりセーフ♪
「送ってくれてありがとう」
そういって、手を振りながら門のほうに駆けていった。
「俺、ここでずっと待ってるからな」
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【2009/08/21 22:14】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0)
連載小説【走れエロス】4/8
ヤマさんがニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「布団敷いてるの? 言ってくれたら、ぼくがしてあげるのに」
積み上げた布団を広げながら、ヤマさんがクスクス笑う。
「今日は、ずいぶん積極的やね」
ち・・・違います!

手にしたビニール袋を背中に隠し、ジワジワ出口に向かった。
「おっと、逃がさないよ」
ヤマさんが大股で歩いてきたかと思うと、ひょいとお姫様抱っこされた。
布団に寝かされ、両手を抑えつけられる。キスしようと顔を近づけてきたので、思わず首をひねって抗った。
「やめてください」
「ふふ、体のほうは素直に反応してるよ」

キャミソールを持ち上げ、ブラをずりあげて乳首を強く吸われた。
「あうっ」
「ほぉら、こんな硬くなってる」
クリクリと指先で転がされ、逃げようともがいてると、ヤマさんの頭がだんだん下に降りてきて、ショーツの上から直接舌を這わせてきた。ぴちゃぴちゃという、いやらしい音が響く。
股間のモノが極限まで膨張したことを確認すると、前歯でショーツを咥え、ゆっくり下に降ろされた。あらわになった私の「男の子」をじっくり眺め回し、手を使わず器用に呑み込んでいく。
「・・・あっ、あっ」
ヤマさんの頭が私の下腹部で上下するたび、女のような喘ぎ声が私の喉から溢れ出し、それがいっそうヤマさんを刺激した。ももの内側の肉をぎゅっとつかみ、爪を深々と食い込ませてくる。抵抗する気など、完全に失せていた。

両脚を持ち上げられ、無防備な蕾にそっと舌が挿し込まれる。全身の筋肉が弛緩し、内臓がじわじわ熱を帯びていった。体内を蹂躙される予感に、皮膚の感度が一気に頂点に達し、ぴんと体がのけぞる。
ぐったりしている私を満足そうに眺めながら、ヤマさんが服を脱いでいく。脱ぎ終えると、枕元に置いてあったローションを手に取り、私の蕾にたっぷり塗り込んだ。指を2本挿し込み、前立腺を直接刺激してくる。
「んああっ!」
もう一方の手で私の胸をつかみ、ものすごい力で握りしめてくる。痛くて暴れると、スッと力を抜く。それを何度か繰り返されるうち、私の意識はシャボン玉のようにはじけ飛び、早く入れてほしいという熱望に変わった。

「これを入れてほしいか」といって、猛り狂う自分のモノを誇示する。
「・・・入れて」
「じゃあ、舌を使ってきれいにしろ」
引き起こされると、髪をつかんで股間に顔を押しつけられた。
「もっと舌を使って。そう、そうや。ああ、気持ちいい」
猫のように体を丸め、無心に頭を上下させる。
ヤマさんの指が私の蕾に押し入ってきて、乱暴にかき回された。
「さあ、コンドームをつけて」
コンドームを手渡され、それをヤマさんのモノにかぶせた。

腰を引き起こし、四つん這いにされると、うしろから一気に貫かれた。
「ぎゃっ!」
逃げようとする私の腰をしっかり固定し、容赦なく打ちつけてくる。
「お願い、抜いて」
「すぐに気持ちよくなるから、我慢しなさい」
たまらず身をよじってヤマさんから体を引き離し、おしりに手を当てて痛みに耐えていると、すかさずヤマさんが乗っかってきて、今度は前から挿入してきた。両脚をぐいっと広げ、ぴったり腰を密着させる。
「痛い、痛い!」
スーッと腰を引いたかと思うと、先端だけを残して止まり、また深々とめり込ませてくる。焦らすように、ヤマさんはその動作をゆっくり繰り返した。
「あうっ、あうっ」
「ほうら、だんだん気持ちよくなってきたやろ?」
ヤマさんのいうとおり、痛みが消えていくのと反比例するように、徐々に快感が襲ってきた。全身の血液がごうごうと音を立て、内臓の奥深く侵入してきた異物をすっぽり包み込む。五感は極限まで研ぎ澄まされ、ちょんと触れられただけで体に電気が走った。

「ああ、もう限界や・・・ひかるちゃん、行くよ、行くよ!」
深々と挿し込まれたヤマさんのモノが私の中でみるみる膨張し、リズミカルな脈を打ち始める。おっぱいを握る手に力が加わり、痛みと快感の狭間で、たまらずあごが天井を向いた。汗の臭いの充満する部屋の中、烈しい吐息だけが交錯していた。
pe0045.jpg
布団の上でぐったりしてると、ヤマさんがタバコを銜えながらこう言った。
「ん? この袋は何?」
恍惚としてる私の目の前に、ビニール袋が突きつけられる。
「・・・あ、それは!」
「まさか、これ」
「小麦粉です。ホットケーキ作ろうと思って、ここに来る前に買っといたの」
「ふーん、小麦粉ね」
「返して」
「もちろん返すよ」

ビニール袋をもぎ取り、しっかり胸に抱いて寝がえりを打つ。
「じゃあ、あの3人にバトンタッチするか」
「え?」
ドアの隙間から、3人の顔がトーテムポールのように一列に並んでいた。

「せっかく来たんや、きみらも楽しんでいきなさい」
「え? いいんスか」
「いいも何も、ここはそういう場所なんやから。さあ遠慮はいらんよ」
ちょ・・・勝手に決めないでほしいよのさ。

たっぷり2時間ほど、3人から徹底的に責められ、ぼろ雑巾のようになってしまった。おしりがヒリヒリする。おっぱいも痛い。シャワーを浴びたいけど、とても歩ける状態じゃない。
「お願い、飲み物持ってきて」と、傍にいた男性に声をかけた。
「何がいい?」
「冷たいビール」
「ちょっと待ってて、俺がおごってあげるよ」
男性が出ていくと猛烈な睡魔が襲ってきて、そのまま意識を失ってしまった。

目が覚めると、隣の布団でカップルさんが励んでいた。
枕元に、ぬるくなったビール。
・・・今、何時だろう。
脱ぎ散らかした下着を身につけ、キャミソールとミニスカートを穿くと、おぼつかない足取りで談話室に入っていった。
「今何時?」
「あらひかるちゃん、やっとお目覚め? えーと、今10時ちょっと過ぎよ」
常連の女装さんが、思わせぶりな視線を送ってきた。
「4人も相手したそうやないの。相変わらずお盛んだこと」
「・・・そうや、あの袋は?」
「え? 何?」

急いでヤリ部屋に戻り、ビニール袋を探す。ない、どこにもない!
「ねえ、ここでビニール袋見なかった?」
「今、忙しいの。あとにしてちょうだい・・・ああん♪」
きびすを返して談話室に戻り、さっきの3人組のひとりに詰め寄った。
「ビニール袋、隣の部屋にあったの知らない?」
「ああ、それやったら、ヤマさんが持って出たのを見たよ」
「うそ!」
「俺、ずっとひかるちゃんの横で寝てたんや。そしたらヤマさんが来て、誰かが踏んで袋が破れでもしたら大変やって言うて持っていきはったわ」
「ヤマさんはどこ?」
「さあ・・・もう帰ったんとちゃうか」

くしゃくしゃの髪のまま、ママのところへ行く。
「ねえ、ヤマさんの連絡先わかる?」
「なんやのその髪、ボッサボサやんか。あははは」
「お願い! ヤマさんの連絡先教えて」
「メアド?」
「できたら電話番号が知りたいんですけど」
「うーん、お客さんのプライバシーを簡単に教えるわけにいかんしなあ」
「人の命がかかってるんです」
「じゃあ、店の電話でかけるから、ヤマさんが出たら換わったげる」

はやる気持ちを抑えつつ、電話がつながるのを待った。
「あ、もしもしヤマさん? なんかひかるちゃんが用事あるんやって。うん、そう。ちょっと待って、今から換わるから」
もぎ取るように受話器を受け取り、耳に押しあてる。
《やあ、ひかるちゃん。さっきはどうも》
「あの袋、ヤマさんが持っていったんでしょ。なんでそんなことするのよ」
《あんなもの、きみが持っていたらろくなことはない。ぼくがしかるべきところに持ってってあげるから安心しなさい》
「今、どこにいるの?」
《残念やけど、それは言えんなあ》
「返して! あれがないと、私困るんです」
《だから言ったでしょ。あんなものはきみが持つべきやないって》
「人の、人の命がかかってるんです! お願い、返して」
《きのうのユニークな子のこと? 悪いことは言わん、ああいう人とはあまり関わらんほうがいい》
「ヤマさんには関係ないでしょ! 早く返してください」
《この電話は、もう使えなくなる。今から川に投げ捨てるからね》
「なんで・・・」
《軽く見積もって5千万。それを売りさばくルートを、ぼくは知ってる》
「やめて、そんなこと」
《さっきのセックス、すごくよかったよ。最後にいい想い出をありがとう》
「待って! お願い、何でもします、だから、だから」
《・・・・・プツン》
切れちゃった・・・

「どうしたの?」と、ママ。
詳しいことを話すわけにはいかない。
「ヤマさんが、私の大切なものを持っていっちゃったんです。今夜中になんとか取り戻さないと・・・ヤマさんの住所知ってたら教えて、お願い!」
「悪いけど、住所どころか本名さえ知らないのよ。こういうお店は、お客さんのプライバシーに触れないってのがセオリーやからね」
「些細なことでもいいんです」
「うーん・・・そういえば、あの人たしかミチコちゃんとつきあってたことがあったわね。ミチコちゃんやったら、何か知ってるかもよ」
「ミチコさんと、連絡取れます?」
「最近うちに来てへんし、こんな時間やから、ちょっとかけにくいなあ」
「お願いします!」

お店の電話からかけると、すぐミチコさんが出た。こんな遅くにかけるなんて非常識だけど、金曜の夜というのがさいわいした。
受話器を押さえながらママがこう言った。「今、ハーフレディにいるそうよ。ここから歩いて10分くらいやから、直接言って聞いてみたら?」
「わかりました。ママ、勘定お願い」

急いでハーフレディに行くと、ミチコさんが3人の女装さんと談笑していた。
「あらひかるちゃん、おひさしぶり」
「すいません、あまり時間ないんです。ヤマさんのことをちょっと聞きたくて」
「なんやの急に・・・あの人のこと、あまり話したくないのよね」
「そんなこと言わないで、お願いします。人の命がかかってるの!」
「聞きたいって、何を」
「あの人の住所とか、勤務先とか」
「知らない。この世界はプライベートに踏み込まないってのが基本やから」
もうダメだ・・・いったい、どうしたらいいの。

「なんか、ただごとやないみたいね」
「・・・・・」
「ちょっと向こうへ行って話をしましょう。実はすごい秘密知ってるんだ」
そういって私の手を引き、奥のボックス席に連れていかれた。

「今から話すことは、絶対口外しないって約束する?」
「・・・はい」
「あの人ね、元ヤクザなのよ。といっても下っ端だったらしいけど。刺青もないし、指もちゃんと10本揃ってるから、見た目だけじゃわかんないけどね」
「それって、本人から聞いたんですか?」
「あの人が行きつけにしてる高級クラブに一度だけ連れてってもらったことがあるのよ。そしたら、そこのオーナーがやってきて、こいつは元ヤクザで、風俗店の雇われ店長をしてたって教えてくれたの。その店にガサ入れがあって、風営法違反でワッパかけられて、トカゲのシッポ切りされちゃったんだって。ようするにお払い箱ってわけね」
「・・・ってことは、そこにいるかもしれない」
「やめといたほうがいいわよ。なんか高そうなお店やったし、ヤクザが出入りするようなお店やからね」
「場所はどこ?」

タクシーに乗り、北新地の高級クラブ「JUN」の扉を開けた。
すかさずウエイターがやってきて「申し訳ありません。ここは会員制になっておりまして」と、体よく追い返されてしまった。無理もない、こんなかっこうで来たら、高級クラブでなくても追い返されるに決まってる。
仕方ない、ヤマさんが出てくるのを待つか。
でも、ここにヤマさんがいるとは限らない。時間は午後10時45分。あと1時間ちょっとしかないというのに、こんなことをしていていいんだろうか。

はやる気持ちを抑えつつ「JUN」のドアを監視していると、1台のタクシーが停まり、中からヤマさんが水商売風の女性と一緒に出てきた。
「ヤマさん!」
「あ・・・ひかるちゃん。なんでこんなところに」
「何よ、このオカマ」と、ケバいおねえさん。
おねえさんを無視し、ヤマさんの前に立ってジロリと睨みつけた。
「返してください」
「いったい、何のこと言ってるのかな」
・・・もう、完全にアタマにきた。

「いい加減にしろよ。なんやったら警察呼んだろか。ボディチェックされたら困るのはそっちのほうやで」
「・・・・・」
「ちょっとぉ、こんなオカマほっといて、早よお店に入ろ」
「うっさいわブス。関係ないヤツは黙っとけ」
「んま! なんやの失礼ね」
「・・・リサちゃん、先に店入っといてくれるか。ちょっと彼女と話があるんや」
「彼女? アホちゃう? こいつ男やんか」
「オカマで悪かったの。そのでっかいケツ蹴っ飛ばされる前にサッサと消えたほうが身のためやぞ。今めちゃくちゃ頭にきてるんやから」
「・・・なんか、ムカつく!」
「ええから、リサちゃんは店に入っときって、ほら」

リサちゃんがいなくなると、ヤマさんが大きなため息をついた。
「参ったな。なんでここがわかった?」
「そんなことはどうでもいいから、あの袋、早く返して!」
「しっ! あまり大声出すなって。ホンマに警察が来たらどうするんや」
「だったら!」
「わかったわかった。返すから、ちょっと落ち着きなさい」
手をつかみ、グイグイ引っ張っていかれる。

堂島川に沿った遊歩道を歩きながら、ヤマさんがタバコを差し出してきた。
「そんなものいりません。早くあれ返して」
「・・・なあひかるちゃん、半分ずつにするってのはどうや」
「ダメです。これを持っていかんと、私の友だちが殺されるんです」
「きのうの彼女か。スジもんやとは思ってたけど、なんかヤバいことしでかしたようやな。あんなもん持ち歩いてたくらいやからね」
「ヤマさんには関係ありません」
「なんでそんなに彼女の身を案じる? あいつはしょせんヤクザや。ほっといたらええやないか。あんな連中と関わったりしたらろくなことない。それより、このヤクを山分けしようやないか。売りさばくのはぼくがする。ひかるちゃんには、売った金の半分あげるから」
「そんなものいりません。とにかく、返して!」
「そうか・・・なら、しゃあない」

大きな拳が、私のみぞおちにめり込んだ。
全身に不快な電気が走り、ひざがかくんと折れる。呼吸ができない。
「悪く思わんとってや。ぼくにすれば、これは千載一遇のチャンスなんや」
胃液がこみ上げてきて、口のへりを伝って落ちた。鯉のように口をぱくぱさせて懸命に空気をむさぼる。でも、いっこうに空気が入ってこない。たまらず地面に倒れ込み、おなかを押さえて悶え苦しんだ。
ヤマさんの姿が、遠ざかっていく。

なんとか呼吸ができるようになり、ゆっくり体を起して時計を見た。
午後11時8分。
ぺっとツバを吐き、手の甲で口をぬぐって立ち上がると、私は「JUN」を目指して歩き出した。ヤマさんは、きっとあそこにいる。
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【2009/08/14 21:09】 | 小説 | トラックバック(1) | コメント(2)
連載小説【走れエロス】3/8
路地を出るとパンプスを脱ぎ捨て、無我夢中で駆けた。
自然と涙が湧き出してくる。
通行人が好奇心たっぷりの視線を送っているのがわかったけれど、そんなことに構ってられない。笑いたけりゃ笑うがいいさ。

気がつくと、ルミ子ママの店の前に立っていた。すでに看板は消えてる。荷物を牛丼屋に残してきたので、着替えはおろか、1銭も持っていなかった。
そこで気づいた。
カバンの中に、携帯が入ってる。
女装するときは、いつもプライバシーがわかるものは持ち歩かないようにしている。でも携帯があれば、私の本名や連絡先など簡単にわかってしまう。

おそるおそるドアノブを引くと、案の定鍵がかかっていた。
途方に暮れ、その場にへたり込む。
・・・もう、警察に行くしかない。
でも、こんなかっこうで行くなんて、とてもできない。
ふと見ると、右の膝小僧から血が出ていた。あの路地を走ってるとき、壁にぶつけたのだろう。
明菜さんは、無事だろうか・・・

そのとき、エレベーターのドアが開いた。
あのふたりが立っていた。
ひとりは熱湯で目をやられたのか、しきりにハンカチで目をぬぐっている。もうひとりは鼻っ柱が折れ、ワイシャツを真っ赤に染めていた。
「やっぱりここに来てたか」
もう逃げる気力もない。

髪をつかまれ、強引に顔を上に向けられた。
「どこへやった?」
「・・・何を」
「とぼけてたら、いてまうどコラ!」
「あの人は無事なんですか」
「ヤスのことか。まあ無事いうたら無事やな。少なくとも、まだ生きとる」
「・・・よかった」
「そんなことより、どこに隠したんや、あ?」
「だから、何のこと・・・」
パシンッと、頬を殴られた。

ビルの前にベンツがぴったり停まっていて、後部座席に放り込まれた。
「おまえの荷物は全部調べた。もちろんヤスの荷物もな。けど、どこにもあらへん。となると、答えはひとつや」
「・・・・・」
「おまえのケツの穴から何が出てくるか、楽しみやで」
「そ・・・そんなこと、してません!」
「うそこけ。あんな店で働いてるくらいや、しょっちゅう男にケツ掘られてるんやろが。ケツに何か入れるくらい、どうってことないわな」
「してませんってば。それに、私はあの店の客です」
「ほなら、なんでカウンターに立っとったんじゃ」
「・・・・・」
「まあ、いずれわかるこっちゃ」
「わかるって、何がです」
「浣腸したる」
「は?」
「いやなら、ナイフで腹かっさばいたってもええんやぞ」
「・・・浣腸のほうがいいです。でも、どうせ何も出てきませんよ」

ともかく、これでだいたい事情がわかった。
明菜さん・・・ヤスさんは、覚せい剤か何かを横領したらしい。それを持って東京へ行き、別の暴力団に売り込むつもりだった。あるいはそれを手土産に、東京の暴力団に鞍替えするつもりだったのかもしれない。なぜそんなことをしたのかはわからないが、たぶん大きなヘマをやったんじゃないか。エンコ詰め程度では済まされない、大きなミス。でなければ、わざわざこんな危険を冒すなんて考えられない。

「あの・・・」
「何や」
「ヤスさんって人は、何であなたたちに追われてるんですか?」
「ブツをパクったからに決まってるやないか」
「それ以前に、何かしでかしたんじゃないですか?」
「ほお、なんでそんなことがわかる」
「そんな気がしただけです」
「まあ、それくらいなら話してやってもええか。あいつはな、関東の広域にいてる知り合いと共謀して、ブツを横流ししとったんじゃ」
「なんで、そんなことを」
「さあな。おおかたバクチで大損でもしたんやろ。ヤスのやつ、向こうの賭場にときどき足を運んどったからな」

ベンツが頑丈そうな門をくぐり、池の前で停車した。正面に2階建ての立派な母屋、向かって右側に土蔵のようなものが建っている。左側に妙にちぐはぐなプレハブ小屋があり、中から麻雀牌をかき回す音が聞こえてきた。敷地全体が高さ2メートルはありそうな高塀で囲まれていて、あたかも「この塀の内側は治外法権ですよ」と訴えかけているようだ。

本来ならオシッコちびってもおかしくないシチュエーションなのに、なぜか恐怖心が湧いてこない。ヤスさんをはじめ、この人たちがどうしても悪い人に思えないのだ。なぜだかはわからない。

「さあ着いたで。クルマから降りろや」
ドアを開けてクルマを出ると、鼻血男に腕をぎゅっとつかまれ、土蔵に放り込まれた。中は薄暗く、いろんなものが乱雑に積み上げられている。その片隅に、椅子に縛りつけられた男の姿・・・ヤスさんだ。ワンピースはぼろぼろに破れ、血にまみれてひどいありさまだ。左のまぶたが腫れ上がり、まるでお岩さんのようになっていた。
「ヤスさん、大丈夫?」
「ぜんぜん平気やで。そんなことより、せっかくしてもらった化粧が台無しや」
ニヤリと笑い、腫れたほうのまぶたでウインクを送ってきた。

「さてと、オカマのねえちゃん」と、赤ら顔。
「ヤスから預かったものを素直に返してくれたら、ねえちゃんは無罪放免や。このまま帰ってええ。けど、隠しだてすれば、ヤスと同じ目に遭うことになる。どや、どっちがいい?」
「そんなこと言われても、ホントに何も知らないんです」
「そうか、ほんなら素直にさせたろ」
ポケットからナイフを取り出し、頬にぴたりと押し当ててきた。それを片手でぽんと払いのけ、キッと睨みつける。
「知ってたらとっくの昔に喋ってますよ。そんなにおしりの中が見たけりゃ勝手にどうぞ。きのう食べたモンの残りカスしか出てけえへんけどね」

入り口近くに立っていた鼻血男がクックッ笑い出した。
「ねえちゃん、度胸あるなあ。オカマにしとくのが惜しいくらいやで」
「度胸やなくて、開き直ったんです。ヤスさん、この人たちに盗んだもの返しなさいよ。借金の穴埋めに自分の組のものチョロまかして横流しするなんてサイテーじゃないですか。そりゃあこの人たちだって怒りますよ」
これを聞いて、ヤスさんの口がポカンと開いた。

「ちょっと待ってくれ。たしかに俺は組のブツを横流しした。けどそれは、借金の穴埋めのためなんかやない。むしろ俺は賭場で勝ちまくってたんや」
「じゃあ、なんであんなことを」
「それは・・・」

ナイフを持った赤ら顔さんが、私の肩をぐっとつかんだ。
「何クサい芝居しとんじゃ。そんなんで俺らを騙せるとでも思っとんかコラ」
「それはヤスさんに言うてください。私、うそなんかついてません」
「捕まったらこう言おうって口裏合わせとったんやろが」
「なんで私がそんなことする必要あるんですか。ヤスさんとは今日会ったばかりなんですよ。名前すら知らん人をかばう理由なんてありません」
「そんなこと信じられるかい。じゃあなんでヤスは、さっき命がけでおんどれを逃がそうとしたんじゃ」
「・・・・・」
「ほうれ見い、何も言われへんやろが。あの牛丼屋で捕まってなかったら、ふたり仲良く手を取り合って逃避行するつもりやったんやろ」
「違いますってば!」
「ぐたぐだ言うてんと、さっさとケツ出せや。俺が手ェ突っ込んで掻き出したる」
「いやです。なんでそんなことされなアカンのですか」
パンと頬をたたかれ、湿っぽい地面にぺたりと尻餅をついてしまった。

「そいつに手ェ出すな! そいつは、ひかるは、ホンマに何も知らんのや」
赤ら顔が、にやりと笑う。
「ヤス、おもろい趣味持っとるのう。こんなオカマのどこがええんじゃ」
「そんなんやない。俺はただ、無関係のひかるに迷惑かけとうないだけじゃ」
「へっ、迷惑かけたないってか。十分迷惑かけとるやないか」
「殴るんやったら、俺を殴れ。ひかるは関係ない」
「おい、聞いたか、根本」
「ああ、たしかに聞いた。よっぽどこのオカマちゃんに入れ上げてるらしい」
「お嬢ちゃんのケツに何も入ってなかったら、ヤスの目の前で集団レイプっちゅうのもおもろい趣向かもな」
「俺はパスさせてもらうで。オカマ抱く趣味はないからな。長田やったらオカマやろうが何やろうが穴さえあったらイケるやろ」
「まあ、イケんこともないけど、俺は人前でセックスせんことにしてるんや」
「じゃあ、ザーメン溜め込んでそうな若いモンを何人か呼んでくるか」
・・・勝手なことを。

「ひかるのケツには何も入ってない。ブツは俺が別の場所に隠した。もちろん、ひかるはその場所を知らん。そやから、ひかるを拷問にかけても無駄や。それと、これだけははっきり言っておく。たとえひかるが目の前でレイプされようが、俺は何とも思わんからな。やりたきゃ勝手にやりやがれ」
さっきビルの路地裏で、我が身を呈して私を助けてくれたヤスさんがそんなことを言うなんて、とても信じられない。
唇を噛みしめながらヤスさんのほうをおそるおそる見ると、また不器用なウインクを送ってきた。

「ほんなら、どこに隠したんや」
「言うわけないやろボケが。おまえらには絶対わからんところじゃ」
「そうか。ならしゃあない。今から地獄見せたる」
そういって、赤ら顔がナイフをかざし、ヤスさんのほうに近づいていった。

「ヤスさん。この人たちから奪ったもの、あの女装サロンに隠したんでしょ。あのときヤスさんはひとりでヤリ部屋に行きましたよね。どう考えても、あのときしか隠すチャンスはありませんでした。違いますか?」
「・・・・・」
「ヤスさんは出入り禁止になってしまったから、もうあのサロンに行けないけど、男性客としてなら行ける。お店の人たちも、ヤスさんの素顔を知りませんからね。考えてみれば、あれほど隠し物をするのにうってつけの場所はありません。中はいつも薄暗くて、利用者はひたすらセックスするだけ、隠し物があるなんて考えもしないはずです」
「・・・余計なことベラベラ喋りやがって」
「そうでもせんと、私がひどい目に遭っちゃうもん」

長田さんが立ち止り、私のほうに戻ってきてしゃがみ込んだ。
「今の、ホンマか?」
「たぶん」
「場所を教えろ」
「もう閉まってます。午後6時から翌朝5時までの営業ですから」
「誰かいてるやろ」
「いえ、ママは後片づけを済ませたあと、いつも自宅に帰っちゃうんです」
「ほなら、夕方に行けばええんやろが」
「私が行ってきます。あなたが行くと、間違いなく門前払いされます」
「なんで俺やったら門前払いされるんや」
「いかにもヤクザっぽいですから」
「けっ、言うてくれるで。おまえがブツ持って戻ってくるっちゅう保障なんかどこにもあらへんのに、そんなことを許すとでも思ってんのか」
「私のケータイ持ってるんでしょ? だったら、もう逃げも隠れもできません。それに、あなたたちの探してるものが何であれ、シロートの私に扱えるものじゃないはずです」
「・・・・・」
「ヤスさんを人質に置いていきます。もし今日中に戻ってこなかったら、煮て食おうと焼いて食おうと、どうぞ好きになさってください」
「ふん、セリヌンティウスを救うメロスにでもなったつもりか」
「・・・太宰治を読んでるヤクザさんがいるとは思わなかったです」
根本さんが、くすっと笑った。

「よっしゃ、おまえを信じよう。今夜0時までにブツを持って戻ってこい。そしたらおまえのケータイを返してやる」
「それだけじゃダメです。ヤスさんを解放してあげてください」
「あほけ! こいつはな」
「わかってます。けど、この人を殺したって何の得もありませんよ。いっそ破門にして、野垂れ死にさせたほうがヤスさんにはよっぽどこたえるはずです」
「はは・・・けっこうエグいこと言うやないけ」
「賭博で儲けたお金がタップリあるって言ってましたから、それを全部いただいちゃえばいいじゃないですか」
「なるほど。じゃあおまえが戻ってくるまでの間、ヤスに金のありかを聞き出しておく。それと、ブツを横流しして手に入れた金もあるはずや」
「それは、どうでしょ」
「?」
「だって、さっきヤスさんが、横流しして得たお金はバクチの穴埋めに使ったんやないって言ってたでしょ?」
「・・・・・」
「つまり、そのお金は、別のところで使っちゃったんだと思うんです」

長田さんが、ヤスさんの襟をつかんだ。
「何に使った?」
「・・・言いとうない」
「ナイフで目ん玉えぐり出したら、ちっとは素直になるかもな」
ちょ・・・冗談じゃない!

「そんなことしなくていいです。ヤスさん、バクチで儲けたお金をこの人たちに全部渡してください。あなたにはそうする義理があるはずです。たとえ違法な品物でも、この人たちから盗んだのは事実なんですから」
「ちぇっ、わかったよ、勝手に持っていきやがれ。俺のマンションの冷蔵庫に通帳と印鑑が隠してある。1千万ほどあるはずや」
「おふたりさん、それでなんとか穏便に済ませてもらえませんか」
ふたりが顔を見合わせた。

「ヤスはバレたらマズいと思って、少しずつブツをちょろまかしとったから、全部合わせてもせいぜい5、6百万程度や。けど今回盗んだものはそんなもんやない。1袋で1千万以上はする。それを3つも盗みよったんや」
「だったら、その3つを返したら、十分オツリが来るわけですよね」
「これは金の問題やない。ヤスは組を裏切った。そのオトシマエはつけてもらわなあかん」
「でも、このことが公になったら、あなたたちも困るんじゃないですか?」
「な・・・何を!」
「だって、さっきからあなたたちしか尋問してないじゃないですか。牛丼屋から追いかけてきたときも子分みたいな若い人が何人かいただけでしたし、女装バーで私を拉致ったときも、あなたたちしかいませんでした。組全体で動いてるなら、ここにもっと偉い人が出てきてもいいはずです。やっと犯人を捕まえたってのに、なんでこんなコソコソするのか、ずっと不思議に思ってたんです」
「おまえ・・・けっこう鋭いな」
「あなたたち3人は、そのブツってのを共同管理していたんでしょ。だからヤスさんが持ち逃げして大慌てした。このままじゃ自分たちも責任を取らされる。それで身内の若いモンだけを使って大捜査網を敷いた。自分たちは、ヤスさんが行きそうなところを片っ端から当たっていて、それでたまたま私のいた女装バーにやってきた。あのビルには、ヤスさんの知り合いの女性が働くスナックがあるらしいですからね」

根本さんが、ふーっとため息をついた。
「参った、マジ降参や。おまえのいうとおり、俺らもできれば秘密裏にこのゴタゴタを片づけてしまいたい。ヤスがちょろまかしたブツ程度ならどうとでもなるが、今回奪ったモノは隠しようがない。なんとか持ち帰ってきてくれ」
「これで決まりですね。私が持ち帰ったら、ヤスさんを解放してあげて」
「わかった。ただし、今夜0時までや。1分でも遅れたら、ヤスを始末する」

牛丼屋に残していったバッグを返してもらい、男物の服に着替えると、電車に飛び乗って会社へ直行した。一睡もしていなかったからかなりキツかったけれど、なんとか定時に仕事を終え、そのまま女装サロンに向かった。
pe0100.jpg
「あら、ひかるちゃん。2日連続とは珍しいやないの」
「きのうはヘンな人を連れてきてごめんなさい。それが言いたくて」
「そんなの気にせんでええのに。ひかるちゃんも知らんかったんでしょ? あいつがヤー公だったってこと」

金曜の夜とあって、早い時間からお客が入っていた。
「今日はなぜか男性ばっかりなのよ。ひかるちゃん、早よ着替えて」
「え? でも私、きのうのお詫びを言いたかっただけで」
「女装せえへんの? お願い、他の女装さんが来るまででエエから、私を助けると思って、女の子になってくれへん?」
・・・困ったなあ。

ヤスさんは、ヤリ部屋のエアコンの上に隠したと言っていた。思い起こせば、たしかにあのときしかヤスさんがひとりきりになる時間はなかった。
それを持ってすぐヤスさんの元に駆けつけるつもりだったけれど、こうなったら仕方ない、1時間ほどここで時間を潰して、それから届けに行こう。

ドレッシングルームで急いで化粧し、きのうと同じ服を着て談話室に行くと、男性客ばかり4人が所在なげにエロビデオを観ていた。
「やあひかるちゃん、また会ったね」
げっ、ヤマさん!
「きのうのユニークなお友だちは一緒じゃないの?」
「ええ、まあ」
「あの子、なかなかいいね。荒削りなところが妙に魅力的やったなあ」
どんだけストライクゾーン広いんスか!

他の3人は、ヤマさんに遠慮してか、つかず離れずの距離を保ってる。それでも視線だけは、ときどき私のむきだしのアンヨに注がれていた。
「ひかるちゃん、何か飲む? ぼくがおごったげるよ」
「いえ、けっこうです」
「そんなこと言わんと、つきあってくれへんかな。まんざら知らん間柄でもないんやから」
この人の、こういうところが私は苦手だ。

ヤマさんが立ちあがり、奥からビールを持って戻ってきた。
断ったのに・・・
「さあ、乾杯しよう」
私の肩を引き寄せ、ベタ~っとくっついてくる。
こんなことをしてる場合じゃない。
「あの、ちょっと失礼します」
「どこ行くの?」
「トイレ」

トイレから出ると、談話室のみんなに気づかれないよう、こっそりヤリ部屋のドアを開けた。
ママはドレッシングルームにいるらしく、姿が見えない。チャンスだ。

中はかなり暗く、足元に小さなアクセサリーランプがあるだけ。目が慣れるまでしばらく佇んでいると、ぼんやりエアコンの白いボディが見えてきた。
抜き足差し足でエアコンの真下まで行き、手を伸ばす。
でも、あと数センチほど届かない。
何か踏み台になりそうなものを探したが、どこにも見つからなかった。
仕方なく、敷かれていた布団を4つに折り畳み、それを2つ積み重ねて上に乗った。もう一度手を伸ばす。
あった!

つかんだと同時に、バランスを崩して床に転倒してしまった。
あいててて・・・
3つの袋は透明なビニールに入れられ、セロテープでしっかり巻きつけられていた。
「あれ? ひかるちゃん、そんなところで何してるの?」
まずい、ヤマさんだ。
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【2009/08/07 21:13】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(4)
桃猫(pink-cat)のお部屋


普段の私は「オトコ」として生活してます。といっても、こんな長い髪してますから、相当怪しいヤツと思われてるかも・・・でもいいんです。そういうの好きだから。

プロフィール

pink-cat

Author:pink-cat
はじめまして♪
私、桃猫(pink-cat)が書いた小説と写真です。どうかご覧ください。

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