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連載小説【走れエロス】1/8
ドアが開いたとたん、みんなの目がテンになった。私なんか、歌いかけてたカラオケを中断し、マイクを握ったまま固まってしまった。
初夏だってのに黒いロングコートを着て、短く刈った髪にサングラス、どこからどう見ても「ヤ」のつく仕事に従事してらっしゃるお方のようだ。
そんな人が、なんで女装バーなんかに・・・
p0464.jpg
「いらっしゃい。お客さん、ここは初めてですか」と、ルミ子ママ。
じろりと店内を見回し、男が無言でうなずいた。
「うちは見てのとおり女装のお店なんですけど、ご存じでらっしゃいます?」
「ああ、知ってる」
「それとね、うちはカタギの商売してますから、その筋のお客さんはお断りしてるんですよ」
「・・・俺が、ヤクザに見えるか」
「言っちゃ悪いけどね」
私を含め、店内の客全員が凍りついた。ママ、どんだけ勇敢やねん!

「おもろいママやな。気に入った。それに、きれいなねえちゃんもぎょうさんいてるし」
「この子たちに手ェ出したら承知せえへんよ」
男が苦笑した。
誰も男と視線を合わせようとしない。ただひとり、ルミ子ママを除いて。
こんなに緊張したのは、中学のとき隣町の古本屋までエロ本を買いに行って以来だ。

「人を外見で判断しないでほしいね。俺は女装したくてここに来たんや」
これには、さすがにみんなびっくりした。
「あなたが、女装を?」と、ママが不審そうに尋ねる。
「電話予約でもしといたほうがよかったかな」
「いえ・・・たしかにあなたは、ここが女装のお店だってことを知ってたって言ってたわよね。知らずに入ったお客さんは、たいていバツの悪そうな顔して出ていきはります」
「わかったら、とりあえず座らせてくれるか」
「あ、ごめんなさい。カウンターの奥、ひかるちゃんの隣が空いてますから、そこに座ってちょうだい。えーと、お飲み物は何になさいます?」
「じゃあ、ビール」
この緊張は、高校のとき十三のストリップ劇場にひとりで行って以来だ。

「ひかるちゃんって言うんか。よろしくな」
笑うと、あごの古傷がひきつって、よりいっそう凄味が増した。
「よろしくです。あの、女装するって本当ですか?」
「俺がしたら、おかしいか?」
「あ・・・いえ、そんな意味で言ったわけじゃ・・・」
「ふふ、おまえみたいに可愛くはなれんやろけど、こんな俺でも、女になりたいときもある」
「そ・・・そうですね」
身長175センチ、体重80キロくらい、年齢は40前後か。日に焼けた顔は精悍で、笑うと目尻に深い皺が寄って、ぞくりとするほど魅力的だった。

「お待たせしました」といって、ママがカウンター越しにビールを注いだ。そのグラスを私のところに持ってきたので、あわてて自分のグラスを持ち上げ、かちんと合わせて乾杯した。
「でも困ったわねえ。今夜は私ひとりなのよ。もうひとりスタッフがいるんですけど、あいにく今日はオフで、メイクしてあげられそうにないわ」
「・・・そこをなんとかたのむ」
「でもねえ、私がメイクしてる間、お店のほうが留守になっちゃうでしょ」
男は落胆したというより、切羽詰まったような表情をしていて、私はだんだん気の毒になってきた。

「ママ、よかったら、私がお店のほう手伝いましょうか」
「え? そんな悪いわ」
「水割り作るくらいできますよ。それに、みんな帰るみたいやし」
男がスツールに腰掛けたとたん、こぞってみんな帰り支度を始めていた。
「じゃあ、1時間だけお願いしようかしら。奥の更衣室にいてるから、わからんことがあったらいつでも呼んでちょうだい」

男を連れてママが更衣室に行ってしまうと、店内は私ひとりになった。
更衣室といっても奥の倉庫を改造して作った簡素なもので、ドレッサーが2つきり置いてあるだけだ。壁には貸衣裳がずらりと掛けられていて、私も駆け出しの頃はよくこの衣装のお世話になった。下着だけは買い取りで、上下セット1000円だ。貸しウィッグが500円、メイク代は1000円。無駄毛を処理できない人のため、厚手のストッキングまで用意されていた。あの人は、おそらくフル装備になるだろう。

そこに、人相の悪い男がふたり入ってきた。
「いらっしゃいませ」
ふたりは座らず、ひととおり店内を見回すと、ドスの利いた声でこう言った。
「ここに、こんなヤツが来えへんかったか」
突きつけられた写真を見ると、あの男が写っていた。ストライプの入ったスーツを着て、ベンツによりかかってる。サングラスはかけていない。
「・・・いえ」
「ねえちゃん、オカマか」
「はい、ここはそういうお店ですから」
「そうか。なら、ヤスのやつが来るわけないか・・・邪魔したな」

ふたりが去ったあと、ママが奥からぬっと顔を出してきた。
「お客さん来てたんとちゃうの?」
「ノンケさんが間違えて入ってきはったみたいです」
「そう・・・あと30分くらいでできるから、もう少し店番しとってちょうだい」
「わかりました」

結局、私がカウンター内にいる間、来たのはあの2人だけだった。
奥から出てきた男の姿を見て、さすがに絶句した。体格に合う服がなかったのか、ライトパープルのワンピースははち切れそうで、たくましい腕がかえって目立っていた。黒のストッキングもどこかチグハグで、9センチのピンヒールがいかにも歩きにくそうだ。ウィッグはロングのストレート、これがまたぜんぜん似合ってない。精悍な顔つきだから、コマンチ族の戦士みたいに見える。メイクもよほど苦労したと見え、顔だけがやたら白く、まぶたに貼ったつけまつ毛がアゲハチョウのようにヒラヒラなびいていた。口紅は真っ赤で、処女の生き血を吸ってきたばかりのパンパイヤのようだ。
本人はいっこう気にしてない様子で、どしんとスツールに腰を下ろすと、すっかりぬるくなってしまったビールを一気に飲み干した。
「どうかしら? 私、女の子に見える?」
「あ・・・き、きれいですよ」
こんな気持ちになったのは、うちのオヤジが近所の奥さんとラブホから出てきたところを目撃して以来だ。

男がコートのポケットに手を突っ込み、中から分厚い札入れを取り出した。
「ママ、すまんけど、この衣装全部、買い取らせてくれんかな」
そういって、カウンターの上に1万円札を3枚置いた。
「そんな、困ります」
「これじゃ足りんか。じゃあ、あと2万出す」
「お金の問題じゃありません。うちの衣装は貸し出し専用なんですよ」
「そこをなんとか、な、たのむ」
さっきの男たちの件といい、この人、なんかワケアリみたい。

「ママ、私からもお願いします。この人の言うとおりにしてあげて」
「なんでひかるちゃんまでそんなこと言うのよ」
「・・・・・」
「ま、しょうがないわね。ただし、このことは誰にも言わないって約束して」
「すまんなママ。感謝する」といって、男が片手を顔の前にかざした。

1万円札を5枚置き、男がコートを持って店を出ようとしたので、あわててあとを追いかけた。店を出たところで、なんとか追いつく。
「もう帰っちゃうんですか」
「ああ、ひかるには世話になったな」
いきなり呼び捨てやし~

「まだ帰らないほうがいいと思いますよ」
「・・・なんで?」
「あなたのことを探してる人が、さっきここにやってきたんです」
とたんに、男の表情が険しくなった。
「どんなヤツやった?」
「スーツを着た男の人がふたり。あなたを写真を見せて、こんなヤツが来えへんかったかって訊いてきました」
「・・・・・」
「まだ、このへんをウロウロしてると思います」

カウンター席に並んで座り、男のグラスにビールを注いであげた。
「はっきりいって、そんなかっこうで外を歩いたら、よけい目立ちますよ」
「そうか・・・これで完ぺきにあいつらの目をごまかせると思ったんやけどな」
「このあと、どうするつもりだったんですか?」
「タクシーで新大阪まで行って、最終の新幹線で東京へ行く」
「こんなところまで探しに来たくらいですから、駅や空港にもあなたを探してる人たちがたくさんいるはずです」
「だから女装したんや。これなら俺やとわかるまいと思ってな」
「・・・間違いなく、イッパツでわかっちゃいますって」
「くそっ、どうすりゃエエんじゃ」
「事情がよくわかんないけど、警察に行ったほうがいいんじゃないですか?」
「そんなことできるかい。冗談やないで」
「でも・・・さっきの人たち、あれはどう見ても」
「余計な詮索するな。ひかるに迷惑かけたくない」
「・・・・・」

ママが怪訝そうな顔でこっちを見てたので、あわてて話題を変えた。
「その映画、たしか勝新太郎が出てたんでしたよね」
「いや、高倉健や。そうか、ひかるもあの映画を観てたのか」
「ヤクザ映画って、けっこう好きなんですよ」
「そんな可愛い顔して、ヤクザ映画が好きなんて言うなよ」
「顔は関係ないですって。あははは」

1時間後、ふたりで店を出た。
ママがいると、込み入った話ができない。

「新幹線は、あきらめたほうがいいです。少なくとも、今夜は」
「そうかもな」
「私と並んで歩いてると、たぶん気づかれないと思います。ひとりだったら目立つけど、私と一緒ならオカマバーの店員か何かと思われるはず」
「とはいえ、こんなところでウロウロしてるわけにもいかん」
「ホテルでしばらく潜伏しておくってのは?」
「そんなことしたら即バレや。あいつらの情報網はあなどれんよってな」
「じゃあ、ラブホは?」
「あかんあかん、たいていのラブホは連中の息がかかってるし、横の繋がりがあるさかい、すでに俺の顔写真が出回ってるはずや」
「・・・サロン、行きます?」
「なんや、それ?」
「マンションの一室を使った女装系のお店です。朝までやってますから、とりあえず今夜はそこで休んで、改めて明日のこと考えたらどうです?」
「近くにあるんか?」
「ここから歩いて10分くらいです」

阪急東通のアーケードと平行に続く裏道を歩いてると、酔っ払いの3人連れが正面から千鳥足で近づいてきた。
「おっ、ねえちゃん。こんなところでふたりして立ちんぼか~」
バーコードヘアを垂らし、酒臭い息を吹きかけてくる。
「おっほっほー、こっちのねえちゃん、めっちゃええ体格しとるのお」
両側のふたりが顔を引きつらせ、「課長、そんなこと言うたら失礼やないですか」といって懸命になだめた。

おそるおそる男のほうを見ると、目をキラキラ輝かせてこう言った。
「いやーん、ひかるちゃん、このおじさまたち怖~い」
うげっ!
私ゃあんたが怖い・・・

JR環状線の高架をくぐったとたん、男が私の肩をペシッとひっぱたいた。
「うひょひょ、この俺が女に見えたらしいぞ」
「そ・・・そうですね」
女に見えたのではなく、オカマに見えたんだと思います。
「ひかるは心配しすぎとちゃうか。これなら新幹線乗ってもバレへんで」
「さっきのおじさんみたいに泥酔してる人ばっかりやったらバレへんかもしれませんけど、あなたを追ってる人たちはおそらくシラフです」

マンションのエレベーターを降りて女装サロンのドアを開けると、平日というのにけっこう賑わっていた。女装さんが3人、男性客が5人。
夏子ママがやってきて、私たちを歓迎する。
「そっちの方は、初めてよね」
「はい、私もさっき知り合ったばかりなんですよ」
「お名前は?」
「え・・・」
そういえば、まだ名前を聞いてなかった。

夏子ママに「明菜」と命名され、男がまんざらでもない表情を浮かべた。
「ふふ、なんか照れくさいもんやな」
並んでソファに腰掛けると、男が・・・明菜さんが、周囲を一瞥した。
「・・・あの」
「ん?」
「足を広げて座るの、やめたほうがいいですよ」
「おっ、すまん」
「それから、その貧乏ゆすりも」
「やだぁ、ごめんなさーい」
うぐっ・・・
こんな気持ちになったのは、イメクラでおかあちゃんより年上の女子高生が出てきたとき以来だ。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

【2009/07/24 19:21】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(6)
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コメント
ヤ-さんが女装なんて意外な展開ですね?PART2以降が楽しみです。ひかるちゃんのエッチな場面が待ち遠しいです。色っぽい写真もあると尚うれしいです。
【2009/07/29 21:36】 URL | えいいち #-[ 編集]
えいいちさん、コメントありがとうございます♪
続きは近いうちアップしますので、また読んでくださいね。
【2009/07/29 22:38】 URL | pink-cat #lN14HRyQ[ 編集]
なんか、ヤバそうな展開ですが面白そう。
この後、どうなったのかなあ。
【2009/07/31 11:14】 URL | みつぐ #M18Qr0u2[ 編集]
みつぐさん、コメントありがとうございます。
今夜あたり、続きをアップします~♪
【2009/07/31 15:16】 URL | pink-cat #lN14HRyQ[ 編集]
 すごくおもしろいですね。びっくりしました。始め実話かと思って読んでましたのでwwこの男の人、私は勝手にプロレスラーの蝶野さんを思い浮かべていますw続き楽しみにしてますね♪
【2009/07/31 22:40】 URL | ai #-[ 編集]
aiさん、コメントありがとうございます。
第2話アップしましたので、また読んでください。
プロレスラーの蝶野さんですか・・・たしかにですね☆
【2009/07/31 23:35】 URL | pink-cat #lN14HRyQ[ 編集]
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