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連載小説【走れエロス】5/8
ドアを開けると、予想どおりウエイターが立ち塞がり、私の行く手を遮った。
構わず、勝手に入り込む。
「お客さん、困ります!」
中はけっこう広く、奥のステージにグランドピアノが置かれていた。ざっと見渡したところ、お客さんは20人ほど。団体もいればひとりきりの客もいる。カウンター席もあったが、そこに客はいなかった。珍客がやってきたとでも思っているのか、みんな好奇心たっぷりの目で私をジロジロ眺めていた。

うしろから肩をつかまれ、振り向くと、坊主頭の大男が立っていた。
「ここはおまえみたいな人間の来るトコちゃうで」
肩をつかむ手に、力が込められる。
「痛いなあ、離せよ」
タコボウズのスネを、思いきり蹴っ飛ばした。
「あいてっ! このガキ、下手に出てりゃ調子コキやがって!」
グローブみたいな手が飛んできて、私の頬を直撃した。耳の奥がキーンと鳴ってバランスを失い、ぶざまなかっこうで絨毯の上に倒れ込んだ。ミニスカートがめくれ、白いショーツがあらわになる。
「な・・・なんやねんちくしょう! 私はここに盗られたものを取り返しに来ただけやぞ。そやのに、なんでこんな目に遭わなアカンねん」
ボックス席のほうから、バカにしたような笑い声が聞こえてきた。

「他のお客さまに迷惑や。つまみ出せ」と、タコボウズ。
ウエイターが2人、両側から私の腕をつかみ、よっこらしょと抱え上げて店の外に連れ出そうとする。その手にガブリと噛みついてやった。
「痛てっ! こいつ、イヌみたいなやっちゃな」
もうひとりの男の手を振りほどき、大股でボックス席のほうに歩いていく。
「ヤマさんはどこ? ここにいるんでしょ!」
ウエイターにうしろから抱きつかれ、みぞおちに肘鉄をくらわす。
ブランド物のスーツを着た男性客が、薄笑いを浮かべながら私のほうを見ていた。その横で、ウェイトレスが蔑んだような目を向けてくる。
・・・どいつもこいつも、ムカつく!

いちばん奥のボックス席に、さっきの女とヤマさんが並んで座っていた。その向かい側にラウンド髭の太った男。ソファにふんぞり返り、咥えタバコのまま私を睨みつけていた。シルクハットをかぶったら、ナニゲに似合いそうだ。
「おまえか、これを持ってたというオカマは」といって、髭男爵があのビニール袋を持ち上げてニヤリと笑った。
「それを返せ! あっ・・・」
うしろから髪をつかまれ、グイグイ引っ張られる。さっきのタコボウズだ。
「このオカマ野郎、さんざん手こずらせやがって」
「くそ、放せ!」
肘鉄をくらわそうとすると、あっさり交わされた。その腕をつかみ、思いきりうしろ側にねじられる。「んぎゃ! お、折れる・・・」
「オーナー、こいつどうします? ちょっとヤキ入れときましょか」
「放してやれ」
「・・・え?」
「こいつの目ェ見てみい。こんなキラキラ輝く目ェ見たんは、ひさしぶりや」
「はあ・・・」
「それに比べて、山本、おまえの目は腐り切っとるのお」
ヤマさんが、信じられないという顔で髭男爵をマジマジ見つめていた。

髭男爵の隣に座らされ、ヤマさんとにらめっこする。
隣で、リサちゃんが敵意むき出しの視線を向けていた。
ちらっと時計を見ると、午後11時37分・・・あと23分しかない。

「こんなもの、どこで手に入れたんや」と、髭男爵。
「どこでもいいでしょ。とにかく時間がないんです。早く返してください!」
「これがおまえのもんっちゅう証拠はあるのか」
「ないよ! けど、それを12時までに持っていかんと、私の友だちが殺されてしまうんです。お願いです、あとでどんな仕打ちでも受けますから、今すぐそれを返してください!」
髭男爵が、ダイヤが百個くらいついたロレックスをチラッと眺めた。
「あと、22分しかない」
「だから急いでるんですってば。もう、こんなことしてる場合やないのに・・・」
「どこまで持っていくんや」
「言えません。でも、ここからタクシーで10分くらいのところです」
「ふーん、走れメロスか」
ここにもひとり、太宰治の読者がいた。

「わかった。これは返す。その代わり、あとで必ずここに戻ってこい」
「え? ホンマに?」
「ち・・・ちょっと金村はん、そりゃないわ。話が違うやないか」と、ヤマさん。
髭男爵が、ギロリとヤマさんを睨みつける。
「おまえごときがこんなもん手に入れられるわけないと思とったら、なるほどそういうことか。相変わらず下司なやっちゃのお、山本」
リサちゃんが、意外な展開に目を白黒させてた。

「おまえ、名前は?」
「本名は言えません。女装の世界では、ひかると呼ばれてます」
「そうか。ひかるちゃん、男と男の・・・いや、男とオカマの約束や。あとで必ず戻ってこい。わかったな」
「はい、ありがとうございます!」
「金村はん、そりゃ殺生やわ。ほんならヤクの代金はどうなりまんねん」
「どのみち、おまえに金なんか払うつもりはなかった。飛んで火にいるナントヤラ、ヤクさえ受け取ったら、ここからつまみ出すつもりやったんや」
「そ・・・そんな」
リサちゃんの目が、みるみる怒りの炎に包まれていく。
「ちょっとヤマさん、話が違うやんか。一緒にハワイ行く話はうそやったん? 向こうのコンドミニアムでのんびり暮らす話はどうなったんよ!」
「あ・・・そ、それは」
「ヤマさんの言うこと信じて、私キャバクラやめたんやで。その責任どう取ってくれるのよ。何とか言いなさいよ、ねえってば!」

髭男爵が苦笑しながらウインクを送ってきた。
「さ、時間がないんやろ。早よこれ持って、友だちんトコ行ってこい」
ぽん、と投げ渡された。
「うん、そうする。ありがとうね、髭男爵さん」
「ひげ・・・男爵?」
「ふふ、ルネッサ~ンス♪」
p0065.jpg
大急ぎで店を飛び出し、タクシーを拾うため大通りに出た。北新地周辺はタクシーの通行が制限されている。
ずらりと並ぶタクシーの中から、いちばん安いタクシーを選んだ。
「すいません、○○町まで」
「○○町でしたら、A交差点を通っていかはります?」
「それでいいです。急いでるんで、なるべく早くお願いします」
時計を見る。午後11時48分。あと12分しかない。

A交差点に入ったそのときだった。いまどき珍しい暴走族がけたたましい騒音を撒き散らしながらやってきて、あろうことか私の乗ってるタクシーの前で蛇行運転を始めた。
「こいつら、暖かくなってきたら出てきよりますんや。今日は金曜やさかい、えらいぎょうさんいてますわ」
「急いでるんです。なんとか追い抜くことできませんか」
「そんなことしたら何されるかわかりません。ここはおとなしゅう回り道したほうがよろしいで」
「そんな時間・・・ないんです!」
「そう言われましてもねえ」

矢も盾もたまらず、窓を開けて大声で叫んだ。
「うらぁ! おまえら邪魔なんじゃ! さっさと道あけんかい!」
「お・・・お客さん、なんちゅうことを」
「運転手さん、このまま突っ切ってください」
「ひぃ~、冗談やないで。なんでボクがこんな目に・・・」

数台のバイクが近づいてきて、タクシーの周りをグルグル回りながら恫喝してきた。「今叫んだんはおまえか。ぶっ殺すぞコラ!」
「人の命がかかってるんです。たのむから邪魔せんとってください」
「なんやこのオカマ、ワケわからんこと言うとったらボコるぞ」
「だから、人の命がかかってるって言うてるやろ!」
「じゃかぁしい!」
バイクのうしろに乗っていた男が、金属パットでタクシーのフロントガラスをたたき割った。続いてサイドミラーをたたき落とす。
「うわっ!」
たまらずタクシーが停車した。バイクが取り囲み、ガラスを片っ端からたたき割っていく。
「もう、ムチャクチャや~!」
運転手さんがドアを開けて逃げていった。私も逃げようとしたけど、ドアが開かない。ドアロック部分にプラスティックカバーがかけられていたので、それを取り去り、あわててドアロックを解除する。がしゃーんという音がして、窓ガラスの破片が飛んできた。

「おらぁ! 逃げるなコラ!」
もし時間に遅れてヤスさんが死んだら、こいつらのせいだ。
「どけ。邪魔するな」
「なんやとこのオカマが。このまま無事に済むと思っとんのか、あ!」
もう、完全にキレた。

いちばん近くにいたヤツの鼻っ柱に頭突きして、次の男を睨みつける。
「な・・・なんやこいつ、やる気か。おもろいやないけ」
グイッとビニール袋を突きつける。
「これが何か、わかるか」
「・・・・・」
「覚せい剤・・・と思う。これだけで5千万くらいするそうや」
「そ、それがどうしたっちゅうねん」
「12時までに、これを持っていかんかったら、私の友だちが殺される」
「そんなもん、俺らに関係・・・」
「関係ないわな。そんなことわかってるわい。とにかく私は、これを届けなあかん。そのあとでいくらでも相手したるから、邪魔せんとってくれ」
「・・・それ、ホンマに覚せい剤なんか」
「うそついてどうなる。私の友だちが殺されたら、おまえらのせいやぞ!」
「わかった。なんやようわからんけど、俺のうしろに乗れや」
「え?」
「ダチが殺されるんやろが。早よ乗れ!」

すべての信号を無視して、夜の街を暴走バイクが疾走する。
「どこに行けばええんや?」
「○○町の交差点ってわかる?」
「ああ、知ってる」
大声で話さなければ聞こえない。すごい爆音で、耳がおかしくなりそうだ。

「おまえ、名前は?」
「ひかる」
「俺はシンヤ。こう見えても族のアタマ張ってるんやで」
「あ、そ」
「ちぇっ、ガッカリさせてくれるリアクションするなあ」
「だって私、そんなんぜんぜん興味あらへんし」
「そりゃまあ、そうか」
「あと何分くらいで着く?」
「そうやな、5分もあったら着くやろ」
「それじゃ間に合わん。もっと飛ばして」
「おいおい、無理言うなよ」
「こうなったのも、あんたらのせいなんやで。もっと責任感じてほしいわ」
「わかった。ほんなら思いっきり飛ばすから、しっかりつかまってろ」

交差点を曲がり、住宅街を突っ切ると、やっとあの高塀が見えてきた。
「あそこの角で降ろして」
「おまえ・・・なんかすごいな」
「何が?」
「ここ、ヤーサンの本拠地なんやろ?」
「うん」
「・・・ここで待ってる」
「いいよ、別に」
「おまえに何かあったら大変やないか」
「何もないない」
「やっぱり、おまえすごいわ」

バイクを降り、すぐさま時計を見た。午後11時58分。ぎりぎりセーフ♪
「送ってくれてありがとう」
そういって、手を振りながら門のほうに駆けていった。
「俺、ここでずっと待ってるからな」
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

【2009/08/21 22:14】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0)
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