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連載小説【走れエロス】6/8
門の前に立ち、インターホンのボタンを押す。斜め上に、監視カメラのレンズが怪しく光っていた。
《誰や》
「ひかるです。扉を開けてください」
《・・・ちょっと待っとれ》
腕時計を見ると、ちょうど午前0時だった。

正門の横に小さな通用門があって、そこから甚平を着た男が顔を出してきて、あごをしゃくって入れと命じた。背をかがめて通用門をくぐる。
はやる気持ちを抑え、土蔵に向かって歩き出すと、甚平が「そっちやない」
「え?」
プレハブ小屋を指差し、じゃあなと言って母屋のほうへ去っていった。

ドアを開くと、天井にタバコの煙が立ち込めていて、中でヤスさんたちが全自動麻雀卓を囲んでいた。
「な・・・何よこれ」
「おう、帰ってきたか」といって、長田さんが屈託のない笑顔を向けてくる。
その横で、ヤスさんが気難しそうな顔で手にした牌を眺めていた。隣で根本さんが「ヤス、早よせえや」と急かす。もうひとりは私の知らない顔だ。
いずれにせよ、人命がどうこうという雰囲気じゃない。

「ほう、ちょうど12時やないか」と、長田さん。
本当は3分ほど超過していたのだけど、あえて言わずにおいた。
「・・・何やってんスか」
「見てわからんか? 麻雀に決まってるやろ」
「そうやなくって」
「ところで、ブツはちゃんと持ってきたんやろうな」
「・・・ここにあります」といって、ハンドバッグの中からビニール袋を取り出し、長田さんに手渡した。
「ご苦労やったの。冷蔵庫にビールが入ってるから、勝手にやってくれ」
な・・・なんなの、この緊張感のなさ!

ヤスさんの前に立ち、銜えていたタバコをもぎ取った。
「おいおい、何すんねん」
「人が苦労して袋を取り戻してきたってのに、これはいったいどういうこと?」
「ああ、それな。根本、説明してやってくれや」
ごくりとビールを飲み、根本さんが麻雀牌を睨んだまま話し始めた。
「おまえ、新地のJUNに行ったやろ。あそこはな、うちの組の直轄なんや」
「・・・・・」
「山本のことも聞いた。あいつはうちの元組員でな、何をやらせてもダメなやつで、ええ歳こいてパシリさえ満足にできん。それで風俗の店長やらせたんやけど、これまたぜんぜんダメ、店の女に手ェ出すわ、売り上げをチョロまかすわ、幹部連中もホトホト愛想尽かしてな。そんなとき、うちの若いもんがヘタ打ちよった。そいつが有望なやつで、なんとかムショに行かさんようにとポリの署長にかけあったら、代わりに何か手柄立てさせろって言うてきよって、じゃあ風俗店をどうぞってことになった。まあ、ようするにその程度の使い道しかあらへん男っちゅうわけや」
「・・・ってことはつまり、ヤマさんは、盗んだ麻薬をわざわざ盗まれた相手のところに売りに行ったってわけ?」
「ま、そういうことやな。相変わらずアホなやっちゃで」
「じゃあ、私の今までの苦労は、いったい何やったんですか」
「JUNのオーナーはうちの幹部や。あいつ、えらい感心しとったで。あのオカマちゃんはなかなか見所があるとか言うて、ベタ褒めしとった」
「だからって、こんなトコでのんびり麻雀してるなんて、あんまりです」
「山本がブツを持ち込んできた時点で、この件は解決してた。けど、それを伝えるすべがない。おまえのケータイはここにあるからの」
「・・・JUNのオーナーがここの幹部なら、私がJUNに行ったとき言うてくれればよかったんとちゃいますか」
「それはできん。山本がブツを持ってくるまで、あいつを信用させとかなあかんかったからな。でないと、そのままトンヅラされてしまうかもしれん」
「けど私、あそこのタコボウズに殴られたんですよ」
「敵をあざむくにはまず味方から・・・まあ、カンニンしたってくれや」
なんか、無性に腹が立ってきた。

麻雀牌をなぎ倒し、みんなを睨みつける。
「こんなに苦労して戻ってきたのに・・・ヤスさんを死なせてなるかと思って、さんざんな目にも遭ってきたのに、あまりにひどすぎるやないですか!」
「・・・ひかる、すまんかった」と、ヤスさんが神妙な顔で謝る。
「私は・・・ヤスさんのことが心配で、それで」
涙がぼろぼろ溢れ出てきた。

「ひかる、聞いてくれ。俺がバクチで儲けた金を全部渡すことで、この連中と和解した。それもこれも、みんなひかるのおかげや。きのう、おまえがああ言ってくれんかったら、俺はホンマに殺されていたかもしれん。ブツを取り戻すために奔走してくれたことも、俺は心の底から感謝してる」
「口では何とでも言えるよね。何が感謝よ。こんなところでのんびり麻雀なんかして、ちっとも説得力ないわ」
「他にすることがなかったんや。それとも、俺がギロチン台に縛りつけられてたほうがよかったか?」
「・・・・・」
「でもまあ、たしかにこれはマズかった。謝る。すまん」

ぽんと、根本さんが肩に手を載せてきた。
「俺も謝る。今までひどいことばかりして本当に悪かった。大量のブツをパクられて、頭がカッカしとったんや。まあこれは言い訳にしかならんが」
「俺も謝らせてくれ」と、長田さん。
「正直言うて、俺はおまえのことが好きやった。あ、ヘンな意味とちゃうで。なんちゅうか、裏街道を歩く者特有の親近感というか、世間から後ろ指をさされる者にしかわからん痛みっていうか、そんなものを感じたんや。もちろん俺らはヤクザやから、後ろ指さされて当然や。けど、おまえは違う。何も悪いことしてへんのに、ただ女のかっこうをしてるだけやのに、世間から蔑まれてる。そんなところにも好感を持ったんや。ひかるにすれば迷惑な話かもしれんけどな」

根本さんが立ちあがり、事務机の引き出しから私のケータイを取り出した。
「これは返す。約束やからな。それから、これは少ないかもしれんが、俺からの感謝の気持ちや。受け取ってくれ」
封筒に入れられた札束・・・いくら入ってるか想像もつかない。
「こんなもん、受け取れません」
「汚い金やと思ってんのか? まあそれは否定せんけど、どうしても受け取るのがイヤなら、どっかの慈善団体にでも寄付すればええ。とにかく、この金はおまえの自由にしろ。汚い金も、使いようによってはきれいな金になる。おまえなら、そうしてくれると信じてる」
「・・・わかりました。じゃあ、ありがたく頂戴します」
「あ、それから、これも」といって、大きな紙袋を手渡された。
「何ですか?」
「俺の女にたのんで、買ってきてもらったんや。おまえに気に入ってもらえるかどうかわからんけどな」
開けてみると、可愛いドレスとパンプスが入っていた。
「・・・ありがとう」

長田さんも、はにかみながらプレゼント箱を差し出してきた。
「俺はちゃんと自分で買うてきたぞ。ちょっと恥ずかしかったけどな、はは」
包装を解くと、シャネルの香水とネックレスが入っていた。
「こんなにしてもらって、私、何て言えばいいのか」
「ヤスにいろいろ聞いた。おまえは自分の危険を顧みず、ヤスを守ろうとしたんやってな。こんな極道モンでも、少しは人間としての心を持ってるつもりや。そんなおまえに、俺らはひどいことをした。これくらいして当然や」
「・・・・・」
「JUNのオーナーがおまえを待ってる。もしよかったら、行ったってくれ」
「なんで私を?」
「それは、本人に聞け」

ヤスさんが気まずそうにやってきて、頭をぼりぼり掻いた。
「俺は文無しになってもうたから、ひかるに何もしてやれん。すまん」
「いいですよ、そんなの」
「せめてものお詫びや。おまえにだけはホンマのことを言う」
「ホンマのことって?」
「長田、根本、シンジ、すまんがひかるとふたりだけにしてくれんか」

3人が出ていき、私とヤスさんだけが残った。
「俺が組のブツをちょろまかして横流ししてたのは、東京にいる弟のためや」
「・・・弟さんがいてらしたんですか」
「ああ。新宿のショーパブでニューハーフしとる」
「え!」
「弟といっても、血の繋がってない兄弟で、俺とは8つ違いや。俺が極道の世界に入ったとき、あいつはまだチュー坊で、女みたいにナヨナヨしとったからみんなにいじめられて、ある日自殺未遂を起こしよった。上級生の不良グループにマワされたんや。頭にきて、そいつら全員ブッ殺そうと思って家を出ようとしたら、あいつのかあちゃんが、俺にとっては義理の母親なんやけど、その人がこう言うたんや。あんたみたいな極道な兄がいてるからコウイチがこんな目に遭ったんやって。ショックやったよ。マジでな。そやから俺は、弟がいることを誰にも言わんことにした」
「・・・・・」
「で、弟は東京に引っ越した。あいつのかあちゃんが、俺と引き離したかったんやろな。けど、コウイチは俺のことを好いてくれてた。ときどき、俺に会うためにこっそり大阪に来てくれてたんや。嬉しかったけど、不安でもあった。弟と会ってるところを誰かに見られるかもしれんからな。だから、俺のほうから会いに行くことにした。去年の春からや。そのとき告白された。女になりたいってな。ニューハーフになりたくて、ショーパブでバイトしてるって言うんや。けど、金がないからオペができん。それに、女っぽくはあったけど、けっして美人やなかった。なんせ俺の弟やからな。それで、なんとかしてやろうと思った。タイで性転換させ、韓国で美容整形を受けさせた」

これには本当にびっくりした。そんな事情があったとは・・・
「でもヤマさん、いくら弟さんのためとはいえ、組のものを横流しなんてしなくても、手術代くらい出せたんじゃないの? バクチで大儲けしてたんでしょ?」
「あれはうそ。そうでも言わんと、あいつらを納得させることはできん」
「ってことは、通帳に入ってた1千万ってのは」
「横流しで儲けた金」
「ひっどーい」
「そう言うなや。とにかく、これで弟は絶世の美女になれた。もうこれで、誰もあいつをバカにしたりせんやろう」
「それで、本当に弟さんはしあわせなんやろか」
「・・・どういう意味や」
「綺麗事かもしらんけど、麻薬を横流ししたお金で整形したわけでしょ?」
「・・・・・」
「額に汗して働いて手術したほうが、ありがたみが違うと思う」
「俺は、こんなことしかしてやれん」
「弟さんは、それがどんなお金か知ってるの?」
「いや。弟には、組が経営するクラブのオーナーをしてると言うてある」
「もし、私があの袋を取り戻せてなかったら、ヤマさんが別のルートで売りさばいていたら、弟さんの大好きなおにいちゃんは殺されてたんですよ」
「・・・・・」
「言っちゃ悪いけど、義理のお母さんの気持ちがよくわかる。ヤスさん、あなたはカッとなったら前後の見境がなくなって暴走しちゃうんよ。それを、義理のお母さんは見抜いてたんやと思う」
「そう・・・かもな」
「弟さん、手術してから変わったりせんかった?」
「ああ。衣装代にどうしても50万いるから工面してほしいってなことを、たびたび言うようになった。昔はそんなこと絶対言わんかったのに」
「外見はきれいになったけど、心はすさんでしまった。ヤスさんのせいでね」
「・・・・・」
「愛情って、そんなもんやないと思うよ」

長田さんたちからもらったプレゼントを袋から取り出し、その場で着替えた。
「どう? 似合ってる?」
「すごくきれいや」
「このプレゼントには心がこもってる。だから、きれいに見えるんよ」
「・・・・・」
「私、もう行くね」
「行くって、どこに?」
「JUNのオーナーが、私を待ってるらしいから」
「そうやったな」
「ヤクザさんのことはよくわからんけど、その世界にはその世界のルールってもんがあると思うの。長田さんたちが和解に応じてくれたんなら、その恩義に報うべきやと私は思うな」
「・・・・・」
「ヤスさんのやさしさ、私はちゃんとわかってるつもり。でなきゃ、麻薬を取り返すために大阪中駆けずり回ったりしてへんよ」
「ひかる、また会ってくれるか」
「それは、やめといたほうがいいかも」
「・・・そうか」
ぎゅっと抱きしめられ、キスされた。

プレハブ小屋を出ると、長田さんと根本さんが庭石に腰掛け、タバコをプカプカくゆらせていた。
「遅かったやないか。まさか、中でチチクリおうてたんとちゃうやろな」
「あはは、まさか~」
「それにしても、ドレスよう似合ってるやんけ。見違えたで」
「ありがとう。大切にします」
「また来いよ、と言いたいトコやけど、こんなトコもう二度と来るんやないぞ」
「ふふ、誰がこんなトコ来たるかい」
「けっ、相変わらずやの。まあ、おかげで楽しかったわ」
「私も♪」
p0141.jpg
通用門を出て、高塀沿いに歩く。スカートがヒラヒラして気持ちいい。
ふと見ると、街灯の下に金髪の男が立っていた。
「ホンマに待ってたん?」
「当たり前や。ここで待ってるって、ちゃんと約束したやろが」
「物好きやねえ」
「そんなことより、どうしたんやその服」
「ヤーサンにもらってん」
「おまえ、やっぱりすごいわ!」
こんな気持ちになったのは、高校のときクラス一のカワイ子ちゃんから特大のバレンタインチョコを教室の中でもらって以来だ。
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【2009/08/28 22:37】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0)
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