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短編小説『夢中遊泳・・・京都壬生編』
『夢中遊泳・・・京都壬生編』
(※この作品の著作権は、私"桃猫(pink-cat)"に帰属しますので、無断転載等を硬く禁じます)
hikaru1921-1.jpg

「そのほう、いかがなされた?」
男の押し殺した声は、明らかにこちらを警戒しているようだった。
「何ゆえ、おなごが、かようなところでうずくまっておる」
いつでも抜刀できる間合いを保ちつつ、月明かりが背後になるよう、少しずつ移動しているのがわかった。

「血の匂い・・・怪我をしているのか」
私は答えなかった。

あっと思う間もなく、男が私の傍らに片膝をつくと、ごつごつした手で強引に顎を持ち上げられた。
しばらく私の顔を眺めたあと、男が視線を下へ落とす。
「失礼つかまつる」
そういって、着物の裾を素早く持ち上げ、脚絆からしたたる血に注視した。
「刀傷ではないな。おそらく、槍か何かで刺されたのであろう」

今、自分がどこにいて、何をしようとしているのか、私は知っている。
"あいつ"が教えてくれたから。
hikaru2409-1.jpg

あの日私は、いつもの場所でタクシーに乗り、いつものように行き先を告げると、そのまま深い眠りに堕ちた。 心地よい振動と快適なエアコン、そして、朝まで彼と愛し続けた疲れが、いっぺんに襲ってきたからだ。

気がつくと、タクシーは深い藪の中に停まっていた。
「あの・・・ここ、どこですか?」
「幕末の京都、壬生寺の裏手にある茂みの中です」
運転手は、こっちを見ないまま、低く押し殺した声でそう言った。
「・・・は?」
事態がまったく呑み込めず、私は、呆然と運転手の後頭部を眺めていた。

「お客さん、元の時代に戻りたいですか?」
「・・・・・」
「このタクシーに乗ったのは、あなたの運命。そして、これから起こることも、すべてあなたの運命なのです」
こんなところにタクシー停めたりして、もしかするとこの運転手・・・

「違いますよ。私はいたってノーマルです。あなたを襲ったりしません」
「ど・・・どうでもいいから、早く帰してくださいよ!」
「ひとつだけ、条件があります」
「条件?」
「今夜、子の刻、この壬生寺の先にひとりの男がやってきます。その男を、あなたの手で引き留めてもらいたい」
「・・・なんで、ボクがそんなことせなアカンのですか?」
「その男は女装している男が好きなんです。しかしこの時代に女装者などほとんどいない。いても男娼と呼ばれ、世間から蔑まれています」
「それは、21世紀でもあまり変わらんように思うけど」
「私たちの調査では、あなたがその男の好みにぴったりなんです」
「・・・・・」

「この着物に着替えてもらいます」
そういって、運転手が女物の着物を差し出してきた。
「これは、当時の女性が旅をするときの衣装です。旅姿なら、京都弁でなくても怪しまれません」
「ちょっと待ってください。こんなものを着て、ボクはいったい何をすればいいんですか」
「朝まで、その男を引き留めてくださればいい」
「引き留めるって、どうやって?」
「ふふ・・・大丈夫。向こうのほうがあなたを手放さないでしょう。ひと晩中、彼の相手をしてやってください」

これは夢?
夢なら、何も怖れることはないか。

「そのとおり。これは夢です。あなただけに与えられた、特別な夢です」
「・・・ボクの考えてることがわかるの?」
「夢ですからね」

私は観念して、タクシーを降り、服を一枚ずつ脱いでいった。
「下着も全部脱いでください。この時代にブリーフはいただけません」
「こんなもの、どうやって着たらいいかわかんないよ」
「簡単です。襟を左前にして、帯を締めるだけでいいです」
「お化粧は?」
「もちろん、ダメです」

ひととおり身につけると、突然、運転手が尖った棒で脚を突いてきた。
「痛い! な、何するんですか!」
「怪我をしていないと、男はあなたに近づいてこない」
「うわっ、血が!」
「ご安心ください。その程度の怪我じゃ死にやしませんよ」
「ひどいじゃないですか。早く治療してください」
「治療は、その男にしてもらいなさい」

血がどくどく流れる脚を引きずりながら、私は茂みを出て、指定された寺の鳥居まで行って、静かにうずくまった。
そして、半刻が流れた。
hikaru1424.jpg

「たいした傷ではないが、放っておくわけにはいかぬ。失礼する」
そういうや、男が私のふとももに口をあて、血を吸い出した。
ぺっと吐き、また吸う。
温かい感触が伝わってきて、私は思わず目を伏せた。

男が着ていた服の袖を引き裂き、それを私の足にぐるぐる巻きつける。
この模様・・・どこかで見たような。

「歩けるか」
「ええ・・・なんとか」
その声を聞いて、男の態度が急変した。
「おぬし、男か」
「はい」
「なにゆえ、女の姿をしておる」
「・・・・・」
「まさか、長州あたりの浪人ではあるまいな」
ぎらりと脇差を抜くや、喉元へぴたりと押し当ててきた。

「返答によっては、ただでは済まさん」
「ち・・・違います」
「では、どこから来た」
「それは」

突然、男が短刀を鞘に納めた。
「おぬしが浪人であるわけがない。かようにか細い腕で、刀など振れるとは、俺にはとても思えん」
「・・・・・」
「察するところ、浪花あたりの商人であろう。若干なまりがあるからな。女の姿をしていたのは、危険な浪人どもから己が身を守るため。違うか?」
「・・・そう、です」
「それにしても、お主が男だとは、とても信じられない」

おそるおそる顔を上げ、男の顔を見てびっくりした。
リョウ!
私の彼、リョウにそっくりじゃないの!
なるほど、タクシーの運転手が私に目をつけた理由がこれでわかった。

「この先に、俺が懇意にしている宿がある。そこまで歩けるか?」
「ええ、なんとか」
「すまぬ。疑って悪かった。今宵はそこで養生するといい」

宿の主をたたき起こし、二階の一室へ連れて行かれる。
「主、わかっていようが、ここに俺がいることを口外してはならぬぞ」
「土方様のおたのみとあらば、口が裂けても申しませんゆえ、どうかご安心のほどを」
・・・土方?

布団に寝かされ、脚に巻かれた布を新しいものに取り替えてもらった。
「宿賃は俺が払っておいた。ゆっくり休んでおれ」
そういって立ち上がろうとしたので、あわてて呼び止めた。
「あの、お名前は?」
「・・・聞かぬほうがよかろう。それよりお主、名は何と申す?」
「ひかる、です」
「ひかる、か」

そこへ、店主が酒を盆に載せて運んできた。
「何もございませんが、どうかこれでゆっくりしてくださいまし」
「いや、俺は」
「そちらの奥方は?」
「俺の知り合いだ。丁重に扱え」

仕方ないといった様子で、男は枕元にあぐらをかき、酒を飲み始めた。
「どこか、行かれるんですか?」
「・・・・・」
「こんな、夜遅くに」
「お主には、関係のないことだ」
「では、ひとつだけお聞かせください」
「何だ」
「この夜更けに、なぜおひとりであんなところへ?」

怖い顔を向けられ、思わず目を背けてしまった。
「お主にだけは本当のことを言おう。男と会う約束をしていた」
「男、ですか」
「お主のように、おなごの姿をしている男だ」
「その方は、きれいなんですか?」
「ああ。しかし、お主ほどではない」
「・・・・・」
「まさか、昼間から隊士どもを連れて行くわけにもいかんからな」

タクシーの運転手が言ったことは本当だった。
この男は、女装者が好きなんだ。

「ところでお主は、俺のことを、どう思う?」
「どうって?」
「好きか、嫌いか」
「・・・好きな人に、そっくりです」
「その男は、どんなやつだ」
「素敵な人です」
「俺よりもか」
「・・・・・」

がばっと布団を剥ぎ取られ、両手を押さえつけられると、男がはだけた胸に顔を埋めてきた。
「お主・・・いい香りがするな」
運転手には内緒で、こっそりブルガリの香水をつけていたのだ。
「きれいな肌・・・とても男とは思えん」
顔が徐々に下のほうへ降りてきて、私の大切な部分を口にほおばった。
「あうっ!」
舌を使って、巧妙に私を刺激してくる。
この人、だいぶ遊び慣れてるみたい。

両ももを抱え、彼のいきり立ったものが、ゆっくり挿入されていった。
「ああ、リョウ!」
「・・・リョウとは、誰だ」
しまった。

「お主の男の名か」
「・・・・・」
「今宵は放さんぞ。そのリョウという男のことを忘れさせてやる」
「あああっ」
hikaru2026-1.jpg

朝になると、男はあわてて身繕いを始め、「また来る」といって刀を腰に差し、はにかんだ笑顔を見せた。
その姿を、私は布団の隙間からこっそり眺めていた。

午後になり、ひとりの行商人が宿にやってきた。
あの運転手だった。
「さ、帰りましょう。あなたの時代へ」

元の服に着替え、後部座席に座ると、運転手がこんなことを言ってきた。
「あの男は、これで一命を取り留めた。実はあの夜、待ち伏せされていたんですよ。尊皇攘夷の浪人たちにね」
「・・・うそ」
「あの男が愛していた男娼はすでに殺され、刺客たちがひそかに彼を待っていた。行っていれば、間違いなく殺されていたでしょう」
「なぜ、あの人を助けたの?」
「あそこで殺されていたら、歴史が大きく変わっていた。どのみち彼は北海道で戦死するんですが、それまで生きていてもらわねば困ります」
「だから、なんで?」
「大政奉還って、ご存知ですか?」
「まあ、ちょっとだけ」
「それが、できなくなってしまうんです。勤皇を唱える過激な浪人たちが一気に幕府を倒し、この国は軍国主義に突っ走っていく」
「でも、どうせそうなっちゃうんじゃなかったっけ?」
「もっとひどいことになってしまうんですよ。穏健派はみな暗殺され、ならず者国家として、世界中を敵に回してしまう」
「・・・・・」
「そして、この国は消滅する」
夢にしては、ずいぶんスケールが大きい。

「ひとつだけ聞かせて。あの人の名は、もしかして・・・」
「残念ですが、話はここまで。そろそろ夢から覚めていただきますよ」
前後席の間に透明の板がせり出してきて、エアコン送風口から甘い香りが漂ってきた。
hikaru1217-1.jpg

「お客さん、お客さん。着きましたよ」
気がつくと、車窓から見慣れた街並みが見えていた。
「2400円です」
あれは・・・やっぱり夢だったのか。

「毎度ありがとうございます。忘れ物のありませんように」
タクシーを降りて歩き出そうとしたそのとき、脚に激痛が走った。
「あ・・・運転手さん!」
振り返ると、タクシーはすでに遠くへ走り去っていた。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

【2008/01/24 13:39】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1)
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