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短編小説『コロニーシップD-06号帰還せよ』<前編>
『コロニーシップD-06号帰還せよ』<前編>
(※この作品の著作権は、私"桃猫(pink-cat)"に帰属しますので、無断転載等を硬く禁じます)
hikaru1269-2.jpg

幅3.6メートル、高さ2.4メートルの通路を、ヒカルは着慣れたランニング・ウェアで走っていた。 足元には等間隔に小さな円形窓が並び、そこから漆黒の闇が無表情に横たわっていたが、ヒカルは窓の外の景色には何の関心も示さず、ただ黙々と与えられたカリキュラムをこなしていた。
リストバンドのディスプレイにちらりと目をやる。
<心拍数126、血圧103、血糖値正常、残り2.32km>
視線を元に戻すと、前方に見覚えのある人物が、いかにもけだるそうに走っていた。
徐々にスピードを上げ、彼の隣に並ぶ。

「うっすケンジ、あと何キロ?」
「ああ、ヒカルか。えーっと・・・ひゃあ、まだ4キロも残ってんのかよ」
「はは、おまえはメタボリック体型専用メニューだからな」
「ちぇっ、おまえはいいよ、1時間そこそこで済んじゃうんだろ?」
「そのぶんスピードはケンジより4キロも速いよ」
「あ~~~、もうやめたやめた!」
そういって、ケンジは大粒の汗をしたたらせながら、飾り気のない通路を歩き出した。

「いいのかよ、リストから生体データがマザーに送られてるんだぜ」
「知るもんか。オレはもともと肉体を使うようにはできてねえんだ。オレが使うのは、ここさ」
ケンジが、自分の頭を指差し、ニヤリと笑った。
「ふふっ。たしかにおまえは、国立士官養成校・小学部の頃からいつもトップの成績だったもんな」
「オレにつきあうことはねえぞ、さあ行けって」
「いいよ、ボクもちょうど走るのにうんざりしてたところなんだ」

巨大な円筒形のコロニーシップは、常に等速度で回転しており、外壁のすぐ内側がちょうど1Gになるよう緻密に制御されていた。 ふたりが走っていたのは、その円筒をぐるりと一周するよう作られたジョギング専用通路だった。
コロニーの中心部には、マザーと呼ばれる巨大なスーパーコンピュータが鎮座しており、このシップの航行システムや船内の居住環境などを一元管理していた。
ここでは、毎日の運動がすべての居住者に義務づけられている。 上層の低Gを利用して自らの体重から解放されようとする者が後を絶たないため、ともすれば筋肉や骨の退化を招いてしまう。それを防ぐための必須メニューなのだ。

「ヒカル、オレはな、航行学と宇宙物理学をしっかり勉強して、早いとここんな狭苦しいコロニーからオサラバしてやる」
「それはボクも一緒さ。でも、もう地球には戻れない」
「そんなことはわかってる。行けばやつらに皆殺しにされるのがオチだからな」
「・・・なんで、同じ人間同士が殺し合ったりするんだろう」
「さあね、オレたちがこのコロニーで脱出してきたときは、まだ8歳のガキンチョだった。オレたちが生まれ育ったニッポンってところが核兵器によって消滅し、残ったニッポン人はルナ基地に配属されていたごく一部の人間と、その息子であるオレたちだけってわけさ」
「うん。たまたまボクたちは、このコロニーシップの見学に来ていたから助かったけれど、とうさんはルナ基地に取り残されてしまった」
「オレんとこのオヤジもそうだ」
「このコロニーに女性はいない。いや、いるけど、高齢のオバサン技師や女医が数人、それと、ボクたちを引率してくれた案内係のハルカさんだけ」
「そのハルカさんだって、生きてりゃ40歳だ」
「ハルカさんも苦労したろうな。なにしろ若い女性はハルカさんひとりだったんだから、その・・・」
「このコロニーに住む男たちの性処理役を押しつけられちまった。まったく、気の毒としかいいようがないぜ」
「そして、ハルカさんは」
「ああ、自殺した」

通路を右に折れ、ヒカルたちは"いこいの広場"に出た。 ここはコロニーの中央付近に位置しており、いわゆる"吹き抜け"のような造りになっていた。 広大なベージュ色の床は、コロニーの芯部分を取り囲むように大きくせり上がっていて、見上げると、まるで上空から眺める景色のように、歩いている人の頭部が眺望できた。

床に固定された半透明のベンチに腰かけ、ふたりはタオルで汗をぬぐった。
「ほーら、いわんこっちゃない、マザーからの警告だ」
リストバンドが赤く点滅し、耳障りなブザー音が間断的に鳴り響いた。
「うるせえなあ、スイッチ切っちゃおうぜ」
「ボクも、そうすっか」
ふたり顔を見合わせ、クスクス笑った。

「ところでヒカル、おまえはどうすんだ?」
「どうするって?」
「進路だよ。オレは宇宙航行研究室に内定が決まってるからいいけどさ」
「ボクは・・・」
「防衛隊だけはやめとけよ。そんなもん何の役にも立ちゃしねえ。考えてもみろ、地球政府の連中が、わざわざこんな宇宙の果てまでオレたちを追っかけてくると思うか?」
「・・・さあ」
「そうするつもりなら、とっくの昔にそうしてたさ。追っかけなくても、核弾頭を搭載した追尾ミサイルでも発射すりゃ済むことじゃねえか」
「そうかも、ね」
「オレたちは見捨てられたんだよ。地球を追われて宇宙へ逃げ出した"敗残兵"として」
「・・・・・」
「でなきゃ、15年もこんな生活してねえって」

このコロニーシップ・D06号には、現在256名の居住者がいる。 そのうち、ヒカルと同世代の若者は5名、残りはみなルナ基地に勤務していた技術者や医師、栄養士、防衛隊ルナ基地所属の隊員などである。 そもそもこのコロニーシップは、火星へ移住するために造られた実験機で、核燃料で作られた電気を使って生存空間を維持している。食料もコロニーの中で栽培・飼育しており、これだけの人数が150年は悠に暮らせる量を確保していた。

最大の問題は、この航行に目的地がないことであった。
現時点では、行き当たりばったりで地球に近い環境の惑星を探すしかなく、見つけられなければコロニーごと永遠に宇宙をさまよい続けるしかない。
だが、実はもっと深刻な問題があった。

「今は256名だけどよ、ルナ基地を脱出してきたときは300名以上いたんだぜ。なぜだかわかるか?」
「そりゃあ、病気で死ぬ人がいるからだろ?」
「違う。それもあるが、新しい生命が誕生しないからさ」
「ナルホド」
「何がナルホドだよ、おまえは本当に気楽でいいよ」
「ボク、あまり将来のこととか考えないようにしてるんだ」
「なんで?」
「考えたって仕方ないからさ」

しばらくヒカルを見つめたあと、ケンジがすっくと立ち上がった。
「おまえに見せたいものがある。実はオレも最近知ったんだけどよ、おまえには見せておいたほうがいいと思うんだ」
「どこ行くの?」
「いいから、ついてこいって」
hikaru1861-1.jpg

"いこいの広場"から出ると、ふたりは通路を抜け、入り組んだ迷路のような船内を進んでいった。
「ファームへ行く」
「え? だってあそこは、許可がないと入れないんじゃ?」
「ちゃんと抜け道があるんだよ」
「でも、監視カメラはどうすんのさ」
「あんなもんダミーに決まってんだろ。このコロニーでドロボウするやつがいると思うか?」
「それもそうだね」
「まあ、正直いっちゃえばよ、オレは決められた食事量じゃぜんぜん足んねえから、こっそり盗み食いに入ったんだけどさ」

食糧倉庫の奥にエアダクトがあり、そこからファームへ出られるようになっているらしい。
狭いダクトの中を"ほふく前進"していると、家畜の臭いが次第に強まってきた。
「うっ、臭い!」
「ガマンしろ、ヒカル」
「ボクたち、こんな臭いものを食べてたのか」
「家畜の臭いっていうより、おおかた肥料の臭いだな。オレたちが出すおしっこやウンチを培養して作ってる」
「うそ!」
「それと、あまり言いたくねえんだけど、死んだ人間の肉体も、貴重な肥料になるんだ」
「うげ!」

ようやく灯りが見えてきて、ふたりはファームの広大な敷地に降り立った。 豚や鶏が鳴き声を上げ、農場には整然と野菜が並んでいた。
「あの奥の施設では、魚介類が養殖されてる。どうだヒカル、びっくりしただろ」
「うん・・・でも、なんで非公開にするわけ?」
「その答えは、あの白い施設にある」

ときおり無骨なロボットが餌や肥料を補充しにくるだけで、人の気配はまったくない。 それがなんだか、かえって不気味だった。
「残念ながら、あの施設には入れない。たまたま先日、コロニーのエライさんたちがやってきて、ドアを開けっぱなしにしてたから見ることができたんだが」
「あの中には、何があるの?」
「遺伝子研究所」
「遺伝・・・子?」
「ここにいる豚や鶏を普通に交配させてるだけじゃオレたちの食欲に追いつかない。だからクローンを作ってるのさ」
「・・・・・」
「魚や野菜、米なども、そうやって必要量をまかなってる」
「・・・それが、そんな大ニュース?」

ケンジが「ふう」とため息をつき、ヒカルをジロリと睨みつけた。
「食料だけじゃないんだよ、ここで作ってるのは」
「?」
「そもそもクローン技術ってのは、医療分野で発達した。20世紀後半あたりからさかんに研究が行われ、今じゃほとんど完璧にコピーが作れる」
「だから?」
「おまえは本当にトロいなあ。人間のクローンを作ってんだよ、ここで!」
「ふーん」
「ふーんって・・・」

畑にあったイチゴをひとつもぎ取り、ケンジがそれをパクリと口にほおばる。
「ねえケンジ、たしか人間のクローンは、人格までコピーできない。というか、人間として機能しないはずだったろ?」
「そのとおり。人間は神様じゃねえからな。ヒトを創るなんてできっこない」
「だったら、何のためにそんなことを?」
「臓器移植に使うのさ」
「ああ、なるほど」
「でな、ここのセンセたちは、ちょっと面白いことを考えた」
「面白いこと?」
「たまたま聞いちまったんだが、どうもここの連中、女を作るつもりらしいぜ」
「・・・女」
「ハルカさんのDNAを使って、本物の女を作っちまおうって計画だ」
「そんなこと、できるの?」
「さあ、そこまではわからない。でも、やんなきゃなンねえんだよ。このコロニーがいつまで宇宙をさまよってるかわからねえ現状じゃ、これは非常に深刻な問題だ」
「でも、クローンを作ったって、まともな人間にならないんじゃ」

ヒカルを壁に押しつけ、鼻がくっつきそうなほどケンジが顔を近づけてきた。
「痛い、何すんだよ!」
「オレたちの誰かが、その犠牲者になる」
「?」
「ここで暮らしてる若いヤツの何人かを女にすりゃ、子孫が残せる」
「あ・・・あははは」
「何が可笑しい」
「そんなの、できるわけないじゃん」
「できるかどうか知らねえが、やつらはその実験を本気でやろうとしてるんだ」
「でもさ、そもそもボクたちには子宮がないんだぜ」
「ハルカさんのクローンから、子宮を取り出すって方法がある」
hikaru2038-1.jpg

いきなり、ケンジがヒカルの服をすっぽり剥ぎ取った。
「な・・・何すんだよ!」
「華奢なからだ、女みたいな顔つき、無駄毛のないスベスベした白い肌・・・そして、おまえは成績が悪いから、他に使い道がないときたもんだ」
「こ、このやろ」
「まあ聞けって。たしかおまえ、来週の土曜に医務室へ行くって言ってたよな」
「ああ、それがどうした」
「なんのために行くか、聞いてるか?」
「なんでも、感染症にかかった疑いがあるからって、精密検査するとか言ってたけど」
「そんなこと、本気で信じてるのか」
「だって、医者が言うんだぜ」
「本当におまえは、おめでたいヤツだよ」
「・・・まさか」
「その、まさかだと思うね、オレは」

ずるずると壁を背に崩折れ、ヒカルの顔が蒼白になった。
「どうしたら、いい?」
「どうしようもないね。この狭いコロニーの中じゃ、逃げようにも逃げられない」
「だったら、なんでわざわざこんなところへボクを連れてきたのさ!」
「何も知らずに女にされちまうよりはマシかと思ってね」
「くっ・・・」
「ってのは冗談、なんとか助けてやるよ」
「本当?」
「あまり自信ねえけどな」
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【2008/01/28 00:14】 | 小説 | トラックバック(1) | コメント(0)
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普段の私は「オトコ」として生活してます。といっても、こんな長い髪してますから、相当怪しいヤツと思われてるかも・・・でもいいんです。そういうの好きだから。

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